エネルギー産業におけるICT活用

近年、エネルギーに関する話題がしばしば取り上げられるなか、ICTを積極的に活用した新たな事例も現れ始めている。今回はそうした一例として、IIJとの協業を開始した中部電力を取材した。

中部電力株式会社
コーポレート本部 事業戦略室長
樋口 一成氏

IIJイノベーションインスティテュート
取締役
浅羽 登志也

目次
  1. 家庭向けIoTサービス
  2. コミュニティを活性化するデータサービス
  3. IoTを活用したエネルギーマネージメント
浅羽
中部電力さんとIIJはこの春、新たなIoTサービスを提供する「合同会社ネコリコ」(necolico=next connected and community)を設立しました。まず、設立に至った背景や狙いを教えてください。
樋口
中部電力はエネルギー事業を通して、家庭および地域社会のインフラを支えてきました。そしてこれからは、ICTやIoTを積極的に活用しながら、新しいコミュニティのかたちを提案したり、コミュニティをより豊かにするソリューションを提供するなかで、「コミュニティに貢献する」ことを経営ビジョンに掲げています。「ネコリコ」は、そうした取り組みに不可欠なコネクテッドホームサービスの提供を担っていく新会社です。
浅羽
ネコリコの中心となるサービスには、どのようなものがあるのでしょうか?
樋口
ネコリコは、家庭やコミュニティなど一般のお客さまに家電制御などのIoTサービスを提供するとともに、当社のデータプラットフォームを活用したサービスを提供していきます。
浅羽
データプラットフォームとは、クラウド上にビッグデータを集めて、AIなどを用いてデータを分析し、その結果をさまざまなサービスに活用していくといった感じでしょうか?
樋口
そうです。データプラットフォームには、ネコリコやスマートメーターから入ってくるデータ、街中に設置されたスマートポール(IoT化された電柱で、センサやカメラなどを搭載)からのデータ、その他のインフラのデータなど、多種多様なデータが集まってきますので、それらを有効活用していきます。
浅羽
データプラットフォームの運用・管理の面では、我々もお役に立てそうですね。
樋口
家庭やコミュニティをつなぐのは、当社が築いてきたインフラが中心になりますが、データプラットフォームの運用では、IIJさんが蓄積されてきたクラウドやセキュリティの技術を活用していきたいです。インターネットの世界を切り開いてきたIIJさんと、こうした新事業に取り組むことができるのは頼もしい限りです。
ただし、これらのビッグデータの活用に際しては、個人情報を保護・管理するための枠組が必要になりますし、特に重要なのが「セキュリティ」の問題です。当社がこうしたデータサービスを提供するにあたり、第一に求められるのは「信頼」ですので、情報セキュリティ分野の先駆者であるIIJさんには大きな期待を寄せています。

家庭向けIoTサービス

浅羽
ネコリコの家庭向け IoTサービスの具体例を教えていただけますか。
樋口
例えば、スマートメーターによる電力使用の〝見える化〟ですとか、モーションセンサと連動したWEBカメラ、外出先から家電を操作できる家電コントローラー、室内環境を測定する温湿度センサなどの提供を予定しています。こうしたサービスのインタフェースにはLINEを用いて、スマホなどとの親和性を確保します。
浅羽
今、ご紹介いただいたような機能は、アマゾンやグーグルからも同じようなサービスが出ていますが、何か意識はされているのでしょうか?
樋口
当社は、もう少しインフラ寄りのサービスを志向しておりまして、これからいろいろなサービスが出てきたとき、それらをお客さまに自由に選んでいただき、ストレスなくご利用いただくプラットフォームのようなイメージを持っています。
浅羽
個人的にはアマゾンなどの動向には懸念を持っていまして、家庭内の情報が全て持っていかれるのではないかと思っているのですが……。
樋口
「データは誰のものなのか?」という問題が顕在化しつつあるように感じます。
インターネット上のデータは、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる米国のIT企業に半ば独占されているとも言われていますが、家庭などのリアル・フィールドに関しては、IoT機器が本格的に入っていく、これからになるのではないかと考えています。
欧州や日本では、GAFAなどに対して「データはユーザのものだ」といった動きが出始めており、おそらくその次には、個人情報をきちんと管理する情報銀行のような仕組みが検討されると思いますので、当社もそうした方向性を目指していく考えです。
浅羽
素晴らしいビジョンだと思います。

コミュニティを活性化するデータサービス

浅羽
冒頭で「コミュニティに対する貢献」というお話が出ましたが、どのような概要になるのでしょうか?
樋口
コミュニティにおける「つながり」という点では、インターネット上のヴァーチャルなつながりとはまた異なる、地域内の生活・経済活動に密着した、潜在的なニーズがあると見ています。
例えば、近隣地域において、家庭同士が結び付くコミュニティもあれば、学校区や医療連携のコミュニティ、会社や工場のコミュニティ、老人会や趣味の会などのコミュニティ……等々、さまざまなかたちが想定されます。ネコリコでは、そうしたコミュニティの活動をサポートするソリューションを構築し、コネクテッド端末などを通して、活発なやり取りを実現していくことなどを検討しています。
浅羽
中部電力さんが電力を提供しているエリアが、そうしたコミュニティの構成員になるわけですね。
樋口
その通りです。昨今の高齢化や核家族化の進行にともなって、コミュニティが希薄になってきたという話も耳にしますので、ネコリコのようなサービスが解決の糸口になれるよう努めていきます。

IoTを活用したエネルギーマネージメント

浅羽
実は、私は中部電力さんの圏内に住んでいまして、我が家のソーラーパネルで発電して余った電力を中部電力さんに買い取ってもらっています。こうした電気は無駄なく使われているのでしょうか?
樋口
もちろん使われています。当社が買い取った電気は回り回って、どこかで利用されています。
近年、電力供給のあり方も大きく変わろうとしています。従来は、遠隔地の大型発電所から近隣の変電所まで電気を送電してきて、変電所から各家庭にお届けするという一方向の流れでした。
それが今後は「ローカルグリッド」と呼ばれる身近なエリアが高度化して、太陽光発電や風力発電といった小規模な発電施設からの電力供給が増え、発電機能が分散化していきます。それと同時に、スマートメーター、ソーラーパネル、蓄電池、ヒートポンプ給湯機など家庭内の電力マネージメントも進化していきます。そして、屋内のIoTデバイスと屋外の発電施設、蓄電池、EV車(Electric Vehicle:電気自動車)などが結びついて、相互に電力をやり取りするようになります。つまり、ローカルグリッドが高度化することで、双方向かつ複数の系統を活用した効率的なエネルギー利用が可能になるのです。さらにそうなってくると、電気の安定供給を保つために複雑な制御が必要になりますので、AIの活用も視野に入ってくると思います。
浅羽
エネルギーの供給にICTが活かされる時代になるのですね。
IIJは日本にインターネットがなかったところからスタートしたので、「インターネットも電気のように簡便に使えるようにしたい」という合い言葉のもと、今までがんばってきました。ですから、ICTとエネルギーマネージメントがこのように融合しつつあるというのは、とても感慨深いです。
では、最後に今後に向けた課題などをお聞かせください。
樋口
「コミュニティへの貢献」を実現するために、スピード感のある実施を心がけていきたいです。あとは、予定しているサービスが多岐にわたるので、適材適所でパートナー(企業)を見つけて、良い協業を重ねていくことも重要だと考えています。
浅羽
大変よくわかりました。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

(イラスト/高橋 庸平)

インターネット関連の最新情報「IIJ.news」をお届けします

本記事が掲載されているIIJグループ広報誌「IIJ.news」は、インターネット関連の最新動向や技術情報をお届けする小冊子で、2ヵ月に1回発行しています。

定期購読をご希望の方には無料でお送りしますので、ぜひお申し込みください。

掲載内容はIIJ.newsページでご覧いただけます。

※IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.146」(2018年6月発行)より転載」