【後編】「会社の看板を外しても戦えるプロ」へ――武闘派CIOが語る、AI時代の情シスキャリア

「IIJ 情シスBoost-up Project」がお届けする「情シスキャリアライブラリー」。

情シスとしての実務経験も持つノンフィクションライター・酒井真弓氏をナビゲーターに迎え、システム関連部門で活躍してきた先駆者たちの歩みや意思決定、仕事観を丁寧にひも解きながら、情シスとしてのキャリアのヒントを探っていきます。

P&G、フィリップモリスのIT部門を経て、日清食品ホールディングスで8年間CIOを務めた喜多羅滋夫氏をゲストにお迎えしたインタビューの後編です。

前編はこちらからどうぞ。

目次
  1. ITとの出会いは、動かなかった麻雀ゲーム(前編)
  2. 期待を「はるかに超える」――P&Gで叩き込まれた哲学(前編)
  3. キャリアは椅子、3本脚がそろって初めて安定する(前編)
  4. 「下駄を履かされていた」と気付いた転職失敗(前編)
  5. 情シスの存在意義を問い直した、日清食品CIOとしての8年(前編)
  6. 「会社の看板を外しても輝けるプロフェッショナル」を目指せ
  7. 後悔したくないから、やれることは全部やる
  8. AIは情シスにとって脅威か、それとも追い風か
  9. 仮説を持ち、自ら意思決定する それがAI時代のキャリアの歩み方

「会社の看板を外しても輝けるプロフェッショナル」を目指せ

酒井

当時、喜多羅さんは情シスのメンバーに「日清食品という看板が外れても仕事ができる人になろう」と伝え続けていたそうですね。

喜多羅

会社にいる間は看板の力を借りられますが、いつかそれが外れる日が来るかもしれない。だからこそ、「看板がなくなったとき、今と同じように仕事ができるか」を常に自問しながら働いてほしいと伝えていました。看板に頼らず自分のスキルで勝負できる人間になっていた方が、キャリアのオプションは確実に増えて、仕事はもっと楽しくなる。会社はRPGと同じで、勇者だけでは物語は進みません。魔法使いも僧侶も、時には遊び人も必要なわけです。一人ひとりがユニークなスキルを持ち寄ってチームを組む。そういう組織が本当に強いと思っていました。

酒井

そして、2021年に喜多羅さんは独立。実際に看板を外した今、いかがですか?

喜多羅

正直もう面白くて仕方ないです。自分の看板は、自分が大事にしたいことを軸に、何を前面に出すかすべて自分で決められる。看板が錆びるも輝くも完全に自分次第。それがたまらなく楽しいです。ドラクエで言えば、「僧侶なら誰でもいい」ではなく「あの人じゃないとダメだ」と言われる存在になること。そういうプロフェッショナルを目指すことが、キャリアを作る上で一番大事なことだと思っています。

後悔したくないから、やれることは全部やる

酒井

喜多羅さんの原動力は何ですか?

喜多羅

頑張っている感覚はないんですよ。ただ、後悔だけはしたくない。何かの区切りの瞬間に「あのとき、もうちょっとやっておけばよかった」と言いたくないんです。

おそらく原点は中学時代です。英語の私塾の先生に呼び出され、「あなたは才能があるのに真面目にやらないところが大嫌いだ。しっかり積み上げていかないと、あなたが思う将来は来ない」とこんこんと叱られました。高校3年間は、月曜から土曜まで毎日100語の英単語を覚えてその先生のところへテストを受けに行く生活を、ほぼ例外なく続けました。90点切るとやり直し。卒業するときに一度だけ「よく頑張ったね」と褒めてもらって、大学ノート17冊を渡してくれました。何かを習慣化する力と、愚直に積み上げることの大切さは、あの3年間で身についたものです。

長く続けているマラソンでも、同じことを実感しています。ゴールするために必要なのは、派手なスパートではなく「そこそこのペースを淡々と続けること」だと気付いてからは、仕事への向き合い方も変わりました。スーパープレイより、今日できることを着実に。その先に大きな成果がある。それが私の行動原理です。

酒井

なんか今日は面倒くさいな…となることはないんですか?

喜多羅

もちろん、そういう日もあります。でも後からめちゃくちゃ後悔するわけですよ。「できたはずなのにできなかった」と。同じ後悔はしたくないから、行動を見直すことにしています。例えばランニングウェアで寝るとか、朝起きたら水を飲んで玄関まで行くとか、具体的にアクションと習慣を変えて、できることを全部やるんです。

AIは情シスにとって脅威か、それとも追い風か

酒井

生成AI、AIエージェントの台頭で、情シスの仕事はなくなると思いますか?

喜多羅

私は、恐れる必要はないと思っています。むしろ情シスにとって幸せな世界に移行していくんじゃないかと。経営者というのは常に「今日欲しい」んですよ。要件定義から始めて半年も1年もかかっていたものが、AIを活用すると、もうその場で動くものが見せられるようになっています。AIを駆使して迅速に価値を伝えられるようになったとき、情シスやエンジニアの経営貢献度や評価は、まったく違う次元になるはずです。自分でコードを書くかどうかより、AIという魔法使いを従えていかにステークホルダーをハッピーにできるか。そのスキルの重要性がますます増していくと思います。

酒井

私のようなライター業への影響はどう見ていますか?

喜多羅

AIは、論理的な説明や情報整理が上手ですよね。でも、記事の「背骨」となる部分、「私はこれを伝えたい」という意志や情熱は、まだ人間のライターに残るでしょう。

酒井

情シスも同じかもしれませんね。

喜多羅

そう思います。事業への愛とカスタマーサクセスの視点を持っている情シスは、AIの時代にも価値を失うことはないでしょう。

「背骨」があるかどうかは、経営者も同じです。最近話題のある飲食店が、一時ブームになったのにリピーターがなかなか定着しないという話を聞いて。実はトップが食をビジネスと割り切って、食への愛をあまり語らないそうなんですね。日清食品という食を愛する企業で働いた私には、その経営者の考え方は大きな違和感でした。特に五感に訴える領域では、作り手の思いやこだわりが自然とお客さまに伝わるものなんです。

仮説を持ち、自ら意思決定する それがAI時代のキャリアの歩み方

酒井

喜多羅さんは、これからどんなことに挑戦したいですか?

喜多羅

いま力を入れているのが「CIOの学校」です。初めてCIOに就任した方々と向き合い、コーチングを通じて成果を出せるCIOを輩出していく、日本でまだ誰もやったことがない取り組みです。やりきれば今まで見たことのない景色が見えるはずで、そのチャレンジにたまらなくワクワクしています。

酒井

最後に情シスの皆さんにメッセージをお願いします。

喜多羅

AIの台頭で自分たちの仕事はどうなるのか、不安を感じている方も多いと思います。歴史を振り返れば、コンピュータが登場したときも「経理の仕事がなくなる」と言われ、産業革命では「人力の仕事がなくなる」と言われました。でも、仕事の形が変わっただけで、人間が果たすべき役割はなくならなかった。今回も同じだと思っています。

AIによってコアスキルが再定義されることはあっても、意思決定や事業への思いといった人間にしか果たせない価値はむしろ高まっていくでしょう。変化の激しい世の中、3年先は誰にも読めません。だからこそ、「1年後にこうなっていたい」という仮説を持って、OODA的にくるくるとレビューしながら進んでいく。自分で意思決定しながら、これからのキャリアを楽しんでほしいと思います。

情シスキャリアライブラリー
記事では書ききれなかった背景やエピソードを動画で
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Guest

喜多羅株式会社 Chief Evangelist
喜多羅 滋夫 氏

P&Gとフィリップモリスにて20年余りIT部門に従事した後、2013年に日清食品グループ初のCIOに就任。 グローバル化と標準化を軸に、グループの情報基盤改革の指揮を執り、働き方改革を進める。 2021年4月に独立し、ITとイノベーションによる事業変革支援に取り組む。

Navigator

酒井 真弓 氏

情報システム部出身のノンフィクションライター。広報、イベント企画、コミュニティ運営、MCなどの活動をしながら、行政から民間まで取材。日本初のGoogle Cloud公式エンタープライズユーザー会「Jagu’e’r(ジャガー)」のアンバサダー。著書に『ルポ 日本のDX最前線』(集英社インターナショナル)など。

情シスの皆さんに役立つヒントを「IIJ 情シスBoost-up Project」

IIJでは、企業の情シス部門で働く方に向けた情報発信を行う「IIJ 情シスBoost-up Project」を推進しています。この活動の1つである「IIJ Motivate Seminar」では、有識者による講演を通じて、業務における課題解消のヒントを探り、明日へのモチベーションを感じられる情報をお持ち帰りいただけるイベントを定期開催しています。「IIJ 情シスBoost-up Project」の最新情報は、以下のサイトからご覧ください。

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