世界各国のMVNO市場にフォー…
IIJがMVNO(Mobile Virtual Network Operator)として事業を開始したのは2008年1月のこと。革新的なモバイルサービスを法人向けに提供し業界をリードしてきました。事業を開始して10周年を迎える2018年に、IIJは国内3G/LTE網を利用する初の「フルMVNO」のサービスを開始しました。これにより、従来の様々な制限から解放されて、今までにない自由なサービスが展開可能になりました。とは言え「フルMVNO」という言葉は、日本ではまだ新しい概念で耳にしたことがないかもしれません。では、「フルMVNO」は今までのMVNOと何が違うのでしょうか?
「フルMVNO」にはこれといった定義があるわけではなく、通信事業に関連する業界団体がそれを定めているわけでもありません。 日本でサービスを行っているこれまでのMVNOは、「フルMVNO」に対比する形で「ライトMVNO」と呼ばれることがあり、この2つには明確な違いがあります。 「フルMVNO」は移動体通信のコアとなるネットワークの一部を、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといったMNO(Mobile Network Operator)の設備を利用せずに自ら運用したサービス提供を行う事業形態です。特に加入者管理機能(HLR/HSS)を自ら運用し、国際的な移動体通信における識別子であるMNC・IMSIを保有する独立した通信事業者となります。 では、「フルMVNO」になることによってどのようなことができるようになるのでしょうか?
加入者管理機能(HLR/HSS)を自前で運用することはMVNOにとってどのような意味があるのでしょうか?
大きく3つあります。
1つ目は「契約オペレーションの柔軟性」です。
例えばお客様がモバイル回線を契約すると、通信に必要な契約者情報が最終的にHLR/HSSで処理され、当該契約のSIMを使って通信のための認証が成功します(SIMカードで通信が可能な状態になる)。 これまでMVNOは、MNOが運用するHLR/HSSでサービス提供を行っていました。 当然ながらセキュリティなどの観点からMVNOは直接HLR/HSSにアクセスすることは許されず、MNOによって定められた仕様に基づいたSIMカードを利用することしかできませんでした。 これまでのサービスでは、利用者から見るとMVNOがSIMカードの開通処理を直接行っているように見えますが、裏側ではMNOに定められたシステム仕様にそった回線開通のための電文をやり取りしていました。 こうした開通処理をMVNOが使いやすく・拡張しやすく定めることができた仕様で完結できるのは、フルMVNOならではの特長と言えます。
2つ目は「ネットワークの柔軟性」です。
これまで書いた通り、従来のMVNOはMNOの運用するHLR/HSSでサービス提供していたため、MNOから借りたSIMカードと当該MNOが設定したネットワークの組み合わせでしか利用者に提供できていませんでした。 また、国際ローミングのように海外の事業者のネットワークを利用しなければならないサービスも、当該MNOが提供している卸サービスの範囲でしか利用できませんでした。 フルMVNOの利点を活かして、海外のモバイル事業者と直接接続できるようになるため、国内外を問わず柔軟性の高いサービスの提供が可能になります。
3つ目は「自由なSIMの形状」です。
これまではMNOから貸与されたSIMカードで制限のあるサービス提供しかできませんでした。 フルMVNOでは、独自にSIMベンダから調達したSIMカードで様々なサービスが提供できるようになります。 例えば「eSIM」(イーシム)と呼ばれる書き換え可能なSIMが提供可能になり、遠隔地からのプロビジョニング(サービス提供のための開通準備)も可能になります。 これにより、SIMの挿し替えが現実的でないような環境(デバイス)にもSIMの組み込みが可能になり、モバイル通信サービスと組み合わせた新たな可能性が広がります。 特にIoTの領域で様々な応用が可能になると考えられます。
これまで書いたように、フルMVNOでは、これまでよりも柔軟性の高いサービスが提供できるようになるため、様々な利用者・デバイスで多様な利用シーンが見込まれます。
(イラスト/STOMACHACHE.)
※2018年3月に弊社サイトに掲載した記事を、一部加筆修正しました。