【徹底解剖】Windows 11の更新プログラム。アップデートの通信負荷と配信管理の最適化手法(前編)

リリースから約10年に渡り、企業クライアントPCの主流として利用されてきたWindwos 10。OSのサポート終了が近づいたことに伴い、次期クライアントOSとしてWindows 11への移行を考える企業が増えています。Windows 7からWindows 10への移行時には更新プログラムの配信・適用の考え方が大きく変わりました。Windows 10からWindows 11への移行時にはどのような点が変わるのでしょうか。こうした疑問を解消するため、ここではWindows 11への更新プログラムの配信・適用について、3つの視点で2回に分けて徹底解説します。

※本記事は2024年12月26日に更新しました。

目次(前編)
  1. Windows 11とWindows 10のメンテナンスの違い
  2. Windows 11の更新プログラムは2種類
  3. Windows 11アップデートの最適化に欠かせない3つの対策とは?
  4. 対策1:5つの更新プログラム配信方法のメリット/デメリット

Windows 11とWindows 10のメンテナンスの違い

企業のクライアントPCの主流OSとして広く利用されてきたWindows 10。そのサポートは、2025年10月14日で終了を迎えます。移行先のクライアントOSとしては、Windows 10の後継OSで互換性のあるWindows 11が選択肢の1つとして多くの企業で検討されている状況かと思います。

マイクロソフトは最新OSのスムーズなアップデートを行うため、Windows as a Service(WaaS)というコンセプトを採用し、継続的に最新バージョンのWindowsを提供する仕組みを整えています。このWaaSは、PCやネットワークの管理を担う担当者にとって、少々厄介な仕組みでもあります。この仕組みはWindows 10から始まり、Windows 11でも採用されています。

WaaSの仕組みでは、更新プログラムがリリースされてからバージョンごとにサポート期間が異なっています。そのサポート期間は変更されることもあるため、最新の提供形態とサポート期間の確認には注意が必要です。

Windows 11の更新プログラムは2種類

では、更新プログラムの配信と管理方法を考えるPCやネットワーク管理者には、どのような対応が求められるのでしょうか。まずWindows 11の更新プログラムがどういうものかを説明しましょう。

Windows 11の更新プログラムは、大きく2つの種類があります。OSをバージョンアップする「機能更新プログラム」と、セキュリティ問題や製品の不具合を修正するため毎月一回以上提供される「品質更新プログラム」です(その他ドライバーの更新などもありますが、この記事では割愛します)。これらの種類自体はWindows 10から変更されていません。

機能更新プログラム 「機能更新プログラム」はOSのアップグレードに近いもので、新機能が含まれることもあり、そのサイズは大容量。フルサイズで5~6GBになることもあり、ダウンロードとPCへの適用には非常に時間がかかります。開発される時期にちなんで「Windows 11 24H2」といった形で表現されます。年1回のペースでリリースされ、どの時期の機能更新プログラムを適用したかによって、OSとしてのサポート期間も異なります。Windows 10とWindows 11ではサポート期間が変更されているので注意が必要です。
品質更新プログラム 「品質更新プログラム」は、機能更新プログラムのリリース後、サポート期間中に毎月提供されます。累積的な更新プログラムやセキュリティ更新プログラムが含まれており、累積的な更新プログラムには以前リリースされたすべての品質更新プログラムが含まれています。品質更新プログラムを毎月欠かさず適用していれば、「エクスプレス配信」という仕組みにより、1ヵ月のダウンロード容量を抑えることが可能です。ただし、エクスプレス配信に対応していないアップデート管理システムを使用している場合は、フルパッケージのダウンロードが必要です。毎月の適用を怠った場合も、それまでの更新プログラムが累積されていくため、フルパッケージのダウンロードが必要になります。

Windows 11アップデートの最適化に欠かせない3つの対策とは?

このようにWindows 11においても、機能更新プログラムの提供頻度が高く、そのサイズも大容量です。一方で、適切な管理を怠ると「ネットワーク負荷が増大し、通信が滞る」「更新プログラムの適用に長時間かかり、PCが使えない」などの問題が発生し、業務に支障をきたす恐れがあります。

※最新の2019年11月の機能更新プログラムでは、イネーブルメントパッケージが採用され、適用時間が短縮されました。しかし、この仕組みは1903から1909への更新のようにシステムファイルが共通していることが前提となります。なお、2020年5月27日にリリースされた2004は、再び適用時間が長くなっております(Version2004について追記しました(2020年6月))。

こうした問題を解消するためには、以下の3つの対策が求められます。

  1. 更新プログラムの配信方法
  2. ネットワークの負荷制御
  3. 更新プログラムの適用計画
本記事(前編)では、1つ目の「更新プログラムの配信方法」について、詳しく紹介しましょう。

対策1:更新プログラムの配信方法
5つの更新プログラム配信方法のメリット/デメリット

更新プログラムのメジャーな配信方法には、以下の5つの手法があります。メジャーな配信方法をWindows 10とWindows 11とで比較した場合、OS間に大きな変更点はありません。

1. Windows Update Windows Updateはマイクロソフトが公開するWindowsのアップデートモジュールを利用し、PCを直接インターネットに接続して更新プログラムを取得します。インターネットにつながる環境さえあれば特別な設備は必要ないため、導入コストはかかりません。ただし、更新プログラムは個々のPCで取得・管理しなければなりません。また配信タイミングの変更はできないため、更新プログラム適用時のネットワークに大きな負荷がかかります。Homeエディションではこの手法のみとなります。
2. Windows Update for Business Windows Update for Businessは、Windows Updateの機能強化版。PCを直接インターネットに接続し更新プログラムを取得する点はWindows Updateと同じですが、更新プログラムの適用を保留することができます。適用時期を先延ばしできるわけです。しかし、こちらも配信タイミングの変更はできないため、更新プログラム適用時のネットワークの負荷増大は避けられません。
3. WSUS(Windows Server Update Services) WSUSはマイクロソフトが企業向けに提供している更新プログラムの配信・管理ソフトウェア「Windows Server Update Services」を用いる方法です。更新プログラムの保留だけでなく、配信する更新プログラムとデバイスも指定可能です。配信状況を確認することもできます。WindowsのIIS(Internet Information Services)機能を活用することで、配信の帯域制御も行えます。ただし、WSUSサーバを新規に構築する必要があり、定期的なメンテナンスも欠かせません。初期導入コストと運用コストも、ある程度見込んでおく必要があるでしょう。
4. アップデート管理システム アップデート管理システムは、マイクロソフトのクライアント管理ソリューションであるMicrosoft Configuration Manager(SCCM/MECM/MCM)やサードパーティ製品を導入して管理する方法です。配信する更新プログラムとデバイスの指定、 配信状況の確認が可能です。指定した更新プログラムのプッシュ型インストールや帯域制御に対応しており、ネットワークの負荷軽減に一定の効果が見込めます。しかし、機能豊富なシステムが多いため、構築コストや運用コストは肥大化しがちです。
5. BranchCache BranchCacheはWAN経由のファイルサーバアクセスを高速化するWindows Serverの機能「BranchCache」を利用する方法です。PC同士による分散型キャッシュモード、またはBranchCacheサーバとPC間でのホスト型キャッシュモードで更新プログラムデータを共有します。更新プログラムが十分にキャッシュされれば、配信のためのネットワーク負荷を最小化できます。更新プログラムとデバイスの指定、 配信状況の確認などの機能は実装していないため、WSUSやアップデート管理システムとの併用が推奨されます。分散型キャッシュモードであれば初期導入コストは比較的低いのですが、BranchCacheの設計・構築やグループポリシー制御が必要です。キャッシュを保存するPC側の空き容量確保も考慮しなければなりません。

後編は、残る2つの対策を解説

このように更新プログラムの配信方法には、それぞれメリット/デメリットがあります。大きな効果を上げるためには、残る2つの「ネットワークの負荷制御」や「更新プログラムの適用計画」まで含めた対策が不可欠です。クラウドベースの配信方法が提供される中、メジャーな5つの配信方法の中ではどのような配信方法が最適なのでしょうか。自社にとって最適な配信方法について後編で詳しくお伝えします。

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