情報システム部門の仕事は、技術…
「IIJ 情シスBoost-up Project」がお届けする「情シスキャリアライブラリー」。
情シスとしての実務経験も持つノンフィクションライター・酒井真弓氏をナビゲーターに迎え、システム関連部門で活躍してきた先駆者たちの歩みや意思決定、仕事観を丁寧にひも解きながら、情シスとしてのキャリアのヒントを探っていきます。
株式会社SUBARU執行役員CIO(最高情報責任者)IT戦略本部長の辻裕里氏をゲストにお迎えしたインタビューの後編です。
前編はこちらからどうぞ。
酒井
辻さんはこれまで、挫折ってありましたか?

辻
それがよく分かっていなくて。うまくいかないことはたくさんありましたが、それが挫折なのか、いったんちょっと沈んだだけなのか、自分でも判断がつかないんですよね。
ただ、仕事を辞めるしかないかもしれないと悩んだ時期が一度あります。私は家庭も仕事も同じように大切に思っているんですが、その両立が難しくなったとき、「専業主婦という人生もあるかもしれない」と本気で考えました。
ちょうどその頃、社会や働き方が大きく変化していました。その変化もあって、子どもの送迎など家庭との両立がしやすくなり、なんとか仕事を続けることができたんです。
酒井
辻さんと同じようにキャリアとプライベートのバランスで悩む声も多いのでは?
辻
いろんな制約の中で、天秤にかけて悩む人は多いと思います。でも私は、「やりたいことは何も諦めるな」と伝えたい。どうにかして組み込もうとすれば、誰かが助けてくれたり、どうにか収まったりしてきましたから。まずは目の前のことをやってごらん、と話すことが多いです。
酒井
辻さんは、どんなリーダーでありたいと思っていますか?
辻
CIOは本来「チーフ・インフォメーション・オフィサー」の略ですが、私は社内で「チーフ・癒し系・お母さん」と言っています。子どもたちが最大限活躍できるように、家でご飯を作ったり洗濯をしたりして送り出してあげる。そんなイメージですね。
酒井
以前は違ったんですか?
辻
40代は、強いリーダーを目指していました。業務の細かいところまで把握して、先頭を切って引っ張る。それがリーダーだと思い込んでいたんです。今思えば、猿山のボス猿ですね。自分の思い描く方向へ強引に持っていこうとして、みんなに迷惑をかけたんじゃないかと思います。
酒井
「チーフ・癒し系・お母さん」として、育成やマネジメントで工夫していることは?
辻
全社で取り組んでいるのが、「とんでもない人財」を見つけて育てることです。オールマイティではないけれど、ある分野で飛び抜けている人っていますよね。当社では、そうした特定の分野で突出した才能を持つ人の力を最大限発揮してもらうことが重要だと考えています。その強みを周囲にも理解してもらい、組織として活かしていく。たとえばコミュニケーションが苦手な方なら、その能力が周りに伝わるよう、上司の側が働きかけるようにしています。
もう1つは、心理的安全性の担保です。これまで情シスは受け身になりがちでした。でも本当は、いろんなアイデアを持っているし、実際に調査もしている。それをみんなの前で提案するような、小さな挑戦ができる組織にしなければいけません。
そこで、仕事の提案だけでなく遊びの提案もできるような雰囲気づくりを心がけるようにしました。ワイガヤの場で仕事の提案も遊びの提案も歓迎しています。遊びの提案で勇気が出れば、仕事の提案もできるようになりますから。
たとえば「バンドやろうぜ」と声をかけたら、リモート会議のチャットで「楽器できます」「歌えます」と手が挙がって、何チームもできたんです。渋谷のライブハウスを貸し切って、私も先頭に立ってペンライトを振りました。仕事の面でも、力試しにハッカソンへ出たいというメンバーが現れて、部を超えたチームで賞を取ってきたり。
酒井
楽しそうです!
辻
「技術は令和、組織は昭和」と比喩して言っているんですが、実は、昔ながらの付き合い方を楽しんでくれる若手社員も意外といるんですよ。もちろん、気が向いたときに、参加したいものだけで大丈夫です。
酒井
管理職になりたくないという方も増えています。辻さんは、どうアドバイスしますか?
辻
まず、「そもそも管理職になりたいと思ってなる人はいないよ」と言っています。その上で、管理職になると情報が一気に入ってくる。サポートしたい人を助けられるし、異動したいと思っている人へ、自分の組織で活躍してもらえるよう働きかけたりすることもできる。やりたいことが、できるようになるんですね。
タイトル(役職)は、その人本来の能力を超えて、幅を広げてくれるチャンスです。しかも、そのチャンスは今しかないかもしれない。自信がないという人には、「上司が面倒を見ればいいだけ」と答えます。少なくとも私がこれまで関わってきた中では、一度管理職になった人が、降りたいと言ってきたことはないんですよ。マイナスより、プラスの方が大きいからだと思います。
酒井
ルーティンはありますか?
辻
宇宙貯金ですね。仕事に行く前には、朝の空に感謝しているんです。
「今日もよろしくね」「ありがとう」と空にあげておく。いいことも悪いことも、宇宙に貯金しているんです。たくさんあげておけば、苦しいときに違う形で返ってくる。悪いことが10個あったら、いいことが1個来るってことです。
あとは、朝6時半に、AIエージェントからその日のタスクとポイントを送ってもらっています。コーヒーを飲みながらチェックして、それから動き出します。今では、役員の間でもこうした活用をする方が増えています。
酒井
モチベーションが上がらないときは、どうしていますか?
辻
モチベーションは、やり始めないと上がらないもの。だから、まず着手します。それでもダメなときは、「これは通常なら絶対に行かないよな」と思うセミナーや飲み会にわざと行くんです。
すると、どういうロジックなのか、天啓のようなものが1つ、2つ降りてくるんですよね。2時間の講演を聞きながら、頭の中ではずっと違うことを考えていて、「あ、こうやってやろう」と思いつく。これにあまり外れはないんですよ。
ゴルフもそうでした。私には一生合わないと思っていたのに、昨年重い腰を上げて始めたら、部署の十数人が一緒に始めてくれて。今では「ゆりちゃんカップ」なんてものまで開かれています。成果を出し続けるには、あえて自分の枠の外に出てみることや、自分のやり方にこだわらないことも大事なのかもしれません。
酒井
情シスの経験は、これからのキャリアにどう効いてくると思いますか?
辻
私がITを選んだときは、「システムならどの会社にもあるから潰しが利くな」くらいに思っていました。でも、そんなレベルはとうに超えましたね。AIが当たり前になって、管理職が文字通り進捗を管理する必要はなくなってきました。一瞬でAIがやってくれますから。そうすると、これまで仕事を管理していた層は、「ビジネスアーキテクト」のような役割が求められるようになっていきます。
これ、実は情シスがずっとやってきた仕事なんです。ユーザから困りごとを聞いた瞬間に、「松竹梅でこんなやり方があるな」と頭の中でイメージできるじゃないですか。情シスを頑張ってきた人は、必要なスキルをすでに持っているんですよ。
意見を言っても伝わらないと感じている情シスの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、業務部門は情シス視点の意見を求めていて、ありがたがってくれるんです。勇気を持って伝えると、喜ばれる存在になれます。そうやって業務プロセスを改善し、企業を変え、日本を元気にしていきましょう。
私自身、今はサービスとしての価値をつくる仕事までさせていただいています。業務プロセスを解きほぐして、仕組みに落とし込む。それが、経営課題のあちこちで必要とされるんです。だから声がかかる。情シスで培われたスキルは、応用が利くんです。
酒井
落語の教えは50代まででしたが、辻さんは、これからどうありたいですか?
辻
私は、私と出会った人に、普通に幸せでいてほしいんです。すごい大成功じゃなくていいので、普通にね。次のリーダーを育てる立場になりましたが、みんなを幸せにできるリーダーを何人育てられるかが、今の楽しみです。
Guest
株式会社SUBARU 執行役員CIO(最高情報責任者)IT戦略本部長
辻 裕里 氏
日本IBMでSEになり、結婚を機に女性就業支援を目的とした週末起業でダブルワーク。
子育てのため地元企業のサンデン株式会社に移り、IT企画を経て執行役員CIOに3年従事。
2019年7月にSUBARUに入社し、情報システム部長として社内ITを統括。
2022年度よりサイバーセキュリティや総務の部長を兼務し、2024年度より現職で全社のIT/DXを推進。
Navigator
酒井 真弓 氏
情報システム部出身のノンフィクションライター。広報、イベント企画、コミュニティ運営、MCなどの活動をしながら、行政から民間まで取材。日本初のGoogle Cloud公式エンタープライズユーザー会「Jagu’e’r(ジャガー)」のアンバサダー。著書に『ルポ 日本のDX最前線』(集英社インターナショナル)など。
IIJでは、企業の情シス部門で働く方に向けた情報発信を行う「IIJ 情シスBoost-up Project」を推進しています。この活動の1つである「IIJ Motivate Seminar」では、有識者による講演を通じて、業務における課題解消のヒントを探り、明日へのモチベーションを感じられる情報をお持ち帰りいただけるイベントを定期開催しています。「IIJ 情シスBoost-up Project」の最新情報は、以下のサイトからご覧ください。
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