「情シス800人に聞いた『全国情シス実態調査』から読み解く情シスの課題と展望」イベントレポート(後編)

◇ 本記事は後編です。前編も併せてご覧ください。

目次
  1. 情シスの頑張りをビジネス目線でわかりやすく、正当にアピールする
  2. 教育は組織体制とセットで
  3. 情シスの「業務内容」「待遇」に関する課題意識
  4. 無理して頑張ってなんとかしない方が良い

情シスの頑張りをビジネス目線でわかりやすく、正当にアピールする

籔田様

社内で目立つことが大事だと思います。成果を分かりやすく出すことです。例えば社内で表彰制度があったらそれを目指してみるとか。情シスって目立たないんですよね。皆さん「いて当たり前」というか、社員と接点もそんなにないじゃないですか。なので社員の皆さんが不満に思ってることを解消して、それをアピールするとかですね。

よく聞くのは障害のときだけすごい怒られるってやつですね(笑)。普段ITをスムーズに使えているのは当たり前じゃなくて、情シスの皆さんが頑張って運用しているからなんですけどね。

籔田様

そうそう、基本的に怒られる部門なんですよね(笑)。
だから「おれら頑張ってるのに」と言ってるだけではなかなか状況が変わらないですね。

井原様

籔田さん良いこと言いますね。仰るとおりだと思います。結局情シスの皆さんは「頑張ってる」とは言いますが、その頑張ってることって「ビジネスとの方向感は合ってますか?」というのがまずありますね。「経営としての価値はどの程度あるのか?」という目線で説明できたら良いと思います。経営も投資に見合うリターンがあると思ったら投資しますので(笑)。なので、投資しないのはなぜか?っていうとそのリターンを期待できないからなわけで、「私に任せてくれたら良いことありますよ、リターンがありますよ」って言えばいい、そういう話だと思います。

籔田様

そうですね、「これできたらもっと費用対効果出ますよ!」と言って、それで通らなかったら諦めるしかないですよね。いや、実際は諦めないですけど(笑)。

園様

その意味では、コロナ禍はIT部門にとってある意味チャンスでもありましたよね。今までやってる業務を変えなきゃいけないっていう時に色んな依頼が社内からありましたし、リモートワークが安全にできるようになったとか、今まで会社に行かなきゃいけなかったものが自宅からできるようになったりとか。

そうですね、別の調査ですが2021年は情シスの社内での存在感が向上したと回答した企業が多かったです。2022年はリモートワークが浸透したこともあるのか、2021年に比べるとやや下がりましたが、外的要因でもありますがそういった側面もありましたね。

いま視聴者の方からチャットで「経営者のITリテラシーが一番の課題かな」というコメントもありました。井原さん、経営側としてどうでしょうか(笑)?

井原様

情シス側が、経営側に分かる言葉で説明できれば良いのかなと思います。究極的には経営が分かっていれば良いと思うので、IT部門側がビジネスのことを理解して、ビジネスの言葉に置き換えて説明してあげれば良いのかなと思います。

視聴者からチャットで「“できて当たり前”という評価に甘んじてないで、“すごい便利になってますよね!”とアピールしよう」とコメントをいただきましたが、まさにそのとおりということですね。

井原様

できて当たり前っていうのはそのとおりなんですけど、その結果がどんなにビジネスに価値を提供してますというのは「言えばいいじゃないか」ということですね。当たり前のことだけど、それ言ってますか?ということで。言わないと相手は分かりっこないので、言ってないならぜひ言いましょう。

言うときはその人に届く言葉とか、理解できる言葉で言いましょうっていうことですよね。

井原様

例えばリモートワークである種ITが脚光を浴びましたけど、我々ITは以前からリモートワーク用のサービスを提供しているじゃないですか。その結果、コロナ前から社員はITを使ってたわけです。なので間違いなく価値を提供してるわけだから、投資にあった効果を出してますよって言い続けていれば、「もっと投資したらもっと効果あるかも」と思うかもしれない。何も言わなくて「お金使ってごめんなさい」としか言わなければ、それはやっぱり理解されないですよね。

そうですね。いま視聴者の方からチャットでコメントをいただいたのですが「情シスはITとビジネスの翻訳者たるべし」、そのとおりですね。

井原様

結局ビジネスでやってますから、投資対効果をきちんと見せる、それに尽きますよね。

でも、投資対効果を説明しにくいものってありません?例えばセキュリティとか、何も起こってない状態での投資とか。前から説明してるのに理解してもらえず、セキュリティ事故が起こってから慌てて投資するとかは良く聞きます。

園様

いや、毎年のようにマルウェア被害の話題がでてるのに、何も危機意識を感じない経営者はいないと思いますよ(笑)。

井原様

確かに「マルウェアが~」と説明しても分からないかもですが、「ビジネス上こんなダメージあったらどうしますか?例えば請求書出せないかもですよ」という説明で、危機感を感じない経営者はいません。「どんなビジネスのダメージがあるのか」という視点で説明すれば、「それは困る」っていうはずですけどね。
なので、ひたすら社内からの改善要望に応え続けて「頑張ってるでしょう」って言われても、「それビジネスにどんなリターンがあるの?」に答えられなくて「経営から見ると実はやってもやらなくても一緒でした」だと、それはね……、になっちゃうので「ビジネスのなりたい姿と方向感に対してこんなにリターンをもたらしてますよ」っていう説明が必要かなと思います。

いま会場には「1人で情シスやってます」という方もいますね。お一人だとなかなかリソースが大変ですよね。ただお話を伺っていると本質的なところは変わらなくて、自分たちの価値を正当に会社に対してアピールして、自分たちの予算なのかリソースなのかをなんとか確保していくということですね。

籔田様

規模によって情シスの人数は変わると思うんですけど、LIFULLの場合も十年ほど前は従業員400名ぐらいに対し2人でやってましたね。
今は従業員1,000人規模で社内ITを専門で担当してるのは実質人数10名ぐらいまで増えたんですが、忙しいは忙しいので、アウトソースはある程度活用していますね。

教育は組織体制とセットで

アウトソーシングが有効な一方で、内製化や、内部での人材育成もテーマとしてあると思います。その辺りはいかがでしょうか。

園様

私は比較的内製化を進めてる方だと思っています。例えば、社内のPCキッティングなど定型化している業務はアウトソーシングしますが、DCのネットワーク装置やサーバの保守業務はどんどん内製化しています。アウトソーシングしても年間の故障頻度も少ないですし、とても価値に合わないと思い始め、もう自分でやった方がいいよねと。それが若手の人材育成にもつながっています。エンジニアがやりがいがあると感じられるようなところに関してはどんどん内製化していって、定型的な業務はアウトソーシングしています。

人材教育にあたって、「こんなことしてるよ」みたいな例ってありますか?

園様

基本的な外部資格は受けてもらいますね。ただ、それ以降はOJTメインです。

井原様

弊社ではあまり内製化は頑張っていなくて、むしろ外部依存をどんどん進めています。外部依存に対する弊害の話はよくある話なので、外注ベンダーさんにチームリーダーを任せて、その下にプロパーをつけて、社員と区別が付かないぐらい組織に組み込んでいる形で、言ってみれば内製化のつもりです。それが良いのかっていうとやはり一長一短はあるんですけど、弊社が置かれた現状では、それが一番パフォーマンスを上げやすいのでそんなやり方にしてます。
あとは「こういうことができるようになったらいいよね」という姿は描いてあるんですが、そうなるためには1割は座学、2割は周りの人の仕事を見て学んで、残り7割は実際自分でやって身に付ける、そんな割合だとすると、やっぱり会社の仕事でそれをやることになっていない限り、できるようにはならないと思っています。
なので教育方法の話ではなく、組織の立て付けかなと思っています。IT部門の中を「こういうことができるようになって欲しいチーム」ということで、求められる専門性ごとにチーム分けをして、やりたい人にそこに入ってもらう。基本は手を挙げたらとにかくできなくても任せるようにしています。

パートナー企業の方に人事評価も任せていますか?

井原様

いえ、それはプロパー社員のマネージャーがやっています。

籔田様

内製に関して言うと、体制とセットだと思います。その人が辞めたりしたときに属人化してしまっていると、どうにもならない状態になります。そのリスクがあるんだったら、内製化にこだわらなくてもいいんじゃないかな。内製化したものを外部に販売するとか、そこまでできるなら良いと思うんですけど難しいですよね。
あとは、例えば中途採用で人が足りないから採用しようと思っても、なかなか人がいないという現状はありますね。5年前と比べてもなかなか見つからない。じゃあどうするべきか。最近なんですけど、エージェントの紹介を待つだけじゃなく、自分たちでTwitterで探したりしていますね。「情シス 転職」って検索してると呟いている方がいたりするので、直接アプローチしたりとか。あとはこういうイベントに出て情報発信することで、「見ました」って言ってくださる方もいるので、そういう機会も活用していますね。

情シスの「業務内容」「待遇」に関する課題意識

ではちょうど時間になったので、次のテーマに行きましょう。「待遇改善ってどう考えますか?」ということで今、賃上げはメディアで盛んに取り上げられていますが、その辺りに触れていきます。

「業務の内容に満足していますか?」と聞くと、4割ちょっとぐらいは「満足」と答えています。どちらでもないが4割。不満、非常に不満が2割ぐらいという分布になっています。
今日視聴者からチャットで「1人で情シスやってます、大変です」というコメントが多くあったんですが、この満足度を従業員規模別で見ると、実は規模別では大きな差はないという結果になりました。
例えば、情シスの人数が少ない企業が他の企業に比べて業務の内容に大きな不満を持っている、ということではなさそうです。

続いて給与条件ですね。業務の内容と条件で比べると、やはり条件面はちょっと満足度が下がっています。これはきっと全体的にそういう感じなんだと思います。

業務内容に関することでもう1点、「情シス頑張ったことアンケート」もやっていまして、「漢字1文字で今年を表してください」と聞くと、1位は「忍」で、2位は「耐」、3位 「忙」という文字が並んでいまして、皆さんお忙しそうだなというのはここを見ると分かります。こういった状況を見ていただいてお三方への質問ですが、業務内容の満足度、賃金など条件への満足度、仕事全体への印象、それを見たときにお感じになることはありますか?

無理して頑張ってなんとかしない方が良い

籔田様

待遇に満足することって永遠にないと思いますね(笑)。お金の話ではなくて、例えば忙しいとか、疲れるとかの話で、それが続くと余裕がなくなってくるんですよね。それを改善しないといけないんですが、それは人を増やさないといけない。
そのときに大事なのが「頑張らない」ということだと思います(笑)。無理して頑張って、それでなんとかできてしまったとすると結局長続きしない。だから無理して頑張りすぎるのって実はあまり良くなくて、できてしまうよりはある意味クリティカルな影響が出ない範囲で問題を起こさないといけない(笑)。そうすることで経営側も必要意識が生まれるので。そうでもしないとなかなか改善されないと思います。

園様

籔田さんのお話、私も参考になりました。
社内の色んなユーザから様々な要望が来ますが、本当にそれを全部最適に応えようとするともう絶対無理ですね。なので規定のレギュレーションを決めて、本当に自分たちもやりたいことをやる、やらなきゃいけないことをやっていくように、上手くやらないと苦しいですよね。社内の知り合いから言われて断りにくくて苦しんでる姿も見るので、組織的なレギュレーションが必要かなと思います。

井原様

お二人の話に乗っからせてもらうんですが、マネジメントのやり方がかなり影響するんだろうなと思います。ユーザからの改善要望とか機能追加とか、色んなものを入れてくれっていう要望はもう果てしなく続くじゃないですか。ITの人たちって困ってる人を助けてあげたい人たちで、自分のスキルをなんとか発揮して助けてあげようみたいな人が多いので、頑張っちゃうじゃないですか。
なので、体力が続く限り要望に応えようとして「忙しい」ってなっちゃう。弊社ではとにかく「投資対効果」ですよってしています。
制度として色んなチェックポイントを設けていて、担当者の判断でやらないというのではなく、会社のルールとしてやらない、と言えるようにしています。

籔田様

あとは例えば、「忙しいのでアウトソースしましょう」と、ある業務をアウトソースする。で、アウトソースするとコストが見える化するんですね。そしてそのコストを、新しいシステムを導入することで削減したこともあります。
コストを見える化しないと、情シスっていつまで経っても改善しないんですよ。だったら、コストを見える化してやれということで。そうすると、上層部に説明するときも非常に分かりやすいんですよね。だから「大変だ」「忙しい」「お金がない」じゃなくて、誰から見ても分かりやすくするような工夫が必要ですね。それをまた成果にして、好循環を生み出すようにしています。

なるほど、パネリストの皆さん、本日は有意義なお話、ありがとうございました。

IIJでは今後も情報システム部門の皆さま向けに、イベントを定期的に開催していきます。最新情報は以下のサイトからご覧ください。