局所的な自営ネットワークとして…
IIJでは、ローカル5Gの活用に向けた取り組みを進めている。ここでは、IIJと東京大学が行なっている実証実験を中心に、ローカル5Gの最前線を紹介する。
2019年6月5日に報道発表した「国内初!東京大学とIIJ、パブリックLTEとプライベートLTEの統合連携に関する実証実験を開始」(図1、図2「実証実験概要」参照)は大きな反響を呼び、産業界はもとより、総務省をはじめとする行政担当者や大学関係者からも多くの問い合わせをいただいています。
報道発表では、IIJがフルMVNOとして実現している公衆無線通信ネットワーク「パブリックLTE」と、通信事業者以外の企業などが自営する無線通信ネットワーク「プライベートLTE(sXGP)」(※1)の統合連携に関する実証実験を、東京大学大学院情報学環中尾研究室とIIJが2020年3月末まで実施する、とお伝えしました。
(※1)「shared eXtended Global Platform」。
バント39:1880MHz~1920MHzの一部で運用されるTD-LTEを利用。
プライベートLTEの一種で、日本ではPHSやデジタルコードレス電話が利用している1.9GHz帯の一部領域が割り当てられている。
プライベートLTEとは、自らLTEの無線基地局やコアネットワーク設備を運用する自社専用の無線通信ネットワークのことです。プライベートLTEを活用することで、スタジアムやショッピングモールといった大規模な施設のなかで、施設の管理スタッフなど一部のユーザだけがアクセスできる独自のネットワークを構築できます。しかしながら、1台のデバイス(1枚のSIM)で、パブリックLTEとプライベートLTEのエリアを行き来する場合、そのままでは電波受信の自動切替えができず、シームレスなハンドオーバー(無線網の切替)を確立できないといった課題があります。
今回の実証実験では、中尾研究室とIIJが共同で検証環境を構築し、シームレスにパブリックLTEとプライベートLTEの通信経路を確保できるよう、動作検証やフィールド試験などを実施しています。加えて、両者は実証実験の結果をもとに、コストを抑えながらも通信品質や信頼性を備えた新しい無線通信技術の創出を目指し、5Gのネットワークスライス(※2)に関わる調査研究に役立てることも視野に入れています。つまり、近い将来、プライベートLTEの延長線にあるローカル5Gと、パブリックLTEの発展形となる通信事業者の5G(公衆網)が連携することを見据えて、LTE網の統合連携の知見を5G網へ展開するための検討が進められているのです。
(※2)通信ネットワークを仮想的に作り、サービスの要求に応じて最適なデータ経路やQuality of Service(ネットワーク上で提供するサービス品質)を選択する技術。
報道発表後、中尾研究室の中尾彰宏教授と、慶応義塾大学の中村修教授が、Interop 2019で「ローカル5Gに寄せる期待と課題」をテーマに対談を行ないました。そのなかで「情報通信の民主化」を加速させる5Gは、新たなイノベーションをもたらすものであり、限られた通信事業者だけがサービスを提供するのではなく、大学関係者を含む多数の人々が利用することで、新たな産業創出や国土強靭化に資する可能性を持っている、という見解を両教授が示されました。
また、中尾教授はIIJとの共同実験の取り組みに関して、プライベートネットワークの圏外に出たとき、通信事業者の全国ネットワークと自動的につながる仕組みは、利便性向上だけでなく、通信費用の削減に大きく寄与する技術である、と言及されました。
今後、新たな周波数帯域の利用や1GHz以下の周波数帯の5G方式への移行(電波資源の拡大)に加えて、基地局の裏側にあるコアネットワーク内の設備と機能の分離が進むことで、通信内容に応じた最適な経路選択や機能をサービスとして再利用する柔軟なシステム運用が現実化する、と見られています。そのキーワードは、新たな無線通信技術である5G NRとクラウドネイティブな5GC、そしてローカル5Gを含めた多様な無線技術の統合連携です。これらの組み合わせにより、自動運転車のような自律型システムやAIによる〝考えるネットワーク〟など、これまでになかったサービスがあと少しで実現されるところまで来ています。
ローカル5Gの他のユースケースとしては、住友商事とCATV各社が、実験局免許にもとづいて共同で実証実験に取り組んでいる高精細の放送コンテンツ配信が注目されています。そこでは、CATVにおける放送配信のラストワンマイルを28GHz帯の無線通信で代替する実験が進められており、「5G FWA(Fixed Wireless Access)」と呼ばれています。現在の5G関連の政府施策や産業界の製品開発の動向を見ると、4K/8Kテレビの家庭への普及が、高精細映像伝送へのローカル5Gの活用を後押しすることになりそうです。
なお、ローカル5Gでは、4Gまでの人を中心とした全国カバレッジの移動無線通信から、(当初はエリア限定ではあるものの)人を含めたあらゆるモノとモノを新たな周波数帯を通じて高信頼かつ低遅延でつなぐものへと変化し、政府が推進するSociety 5.0(データを中心とした付加価値の高いサービス提供を可能とする社会)の端緒になる、と期待されています。
こうした状況を鑑みて、ローカル5Gは学術関係者による利用からスタートしたインターネット黎明期に酷似している、との指摘もあります。IIJが産学連携を含めたローカル5Gの技術開発をリードすることで、5Gがインターネットのように社会のインフラとなる動きが進展するかもしれません。
IIJは2019年5月、千葉県白井市に自社保有の「白井データセンターキャンパス」(※3)を開業しました。この施設は、データセンターだけでなく、プライベートLTEの設備を備えた無線通信技術の実験場としても利用されます。今後は、白井データセンターキャンパスを舞台としたローカル5GのPoCもあり得るでしょう。
引き続き、東京大学との共同研究の成果や、IIJのローカル5Gへの取り組みにご注目ください。
(※3)敷地面積約4万平方メートル、延床面積最大約8万平方メールに、最大50MWの受電容量を備えた大規模・大容量データセンター。
IT人材の働き方改革や運用コスト低減に対応するため、ロボットによる運用実証実験も行なっている。
※IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.154」(2019年10月発行)より転載」