IIJがMVNO(Mobile…
MVNOの伸長が世界的な流れとなっています。今回は、世界各国のMVNO市場にフォーカスし、そのトレンドを紹介します。
MVNOは世界の多くの国で見られるビジネスモデルです。日本では「格安SIM」「格安スマホ」と呼ばれることも多いMVNOですが、その有り様は国によって大きく異なります。
最初に、なぜMVNOは世界的なビジネスモデルになり得たのか、考えてみましょう。それは、電気通信サービスや携帯電話の本質に根ざした「寡占」という各国共通の課題に起因しています。
歴史的に見ると、電気通信事業は国営による独占からスタートした国が多いため、市場構造上、寡占が問題になりやすいのです。さらに近年、携帯電話の爆発的な普及とともに電波資源の不足が寡占化に拍車をかけています。そのため、電波の割り当てを受けずに市場に参入し、競争を活性化できるMVNOが多くの国に共通して見られるビジネスモデルになった、というわけです。
しかし、電気通信市場の歴史の違いや、規制当局の関与の違いにより、MVNOの発展の度合いや市場のトレンドは、国や地域によってバラエティに富んでいます。以下では、MVNOをめぐる最新の状況を地域別にご紹介します。
多くの先進国が地続きであるという地政学的状況、単一市場化を目指す経済統合とそれを進める強力な規制当局の存在などの理由により、欧州はMVNOが世界でもっとも成熟した地域と言えます。
欧州には、日本で「格安SIM」「格安スマホ」と呼ばれるディスカウント型MVNOに加え、クワッドプレイ(ケーブルテレビ、固定電話、モバイル、インターネットの融合)を根幹に据えたメディア・エンターテインメント型MVNO、O2O(Online to Offline)によるセルアップを目指すリテール型MVNO、移民や移住者をターゲットとしたエスニック型MVNO、金融機関や郵便局による金融型MVNO……等々、多様なMVNOが存在しています。またネットワーク・アーキテクチャの面でも、携帯電話のコアネットワークの一部を自前で運用し、高いネットワークの自由度を持つ「フルMVNO」がいくつも存在しており、MVNOの多様化に寄与しています。
欧州ではこの10年間、MVNOに関する規制緩和が進んでいます。スペインで2006年に導入された接続義務(MNOにMVNOへの網開放を義務付けた規制)が2017年に撤廃されるなど、多くの国でMNOに対する事前規制が緩和されました。また、欧州の多くの国では、日本に存在する接続料への直接的な規律が存在しません。このように事前規制が緩和される一方、MVNOへの網開放や料金設定などに関する反競争的行為のモニタリング調査といった事後規制へのシフトが進んでいます。
欧州の規制当局は、事前規制を中心とした規制緩和を進めながらも、必要に迫られればMNOに対する牽制としてMVNOを用いてもいます。特に近年、欧州各国で相次いでいるMNOの合併では、合併による競争の減退を穴埋めすべく、MVNOへの網開放の目標値を条件として設定しているケースが見受けられます。政策上必要な場合は事前規制を盛り込みつつも、あくまで一部にとどめ、それ以外は反競争的行為をあとからチェックする事後規制に転換していくというのが、欧州のMVNO振興政策のトレンドとなっています。
欧州の電気通信市場における最新のトレンドはローミング料金です。欧州の単一市場では、2017年6月から域内におけるローミング小売料金の撤廃(ローム・ライク・アット・ホーム)がスタートしました。これまで欧州を移動するビジネスマンやバカンスに向かう観光客は、高額のローミング料金をMNOに払うか、ローミング料金を比較的抑えることのできるMVNOのプリペイドSIMを利用してきたのですが、ローム・ライク・アット・ホームにより、欧州のMVNOのプリペイドSIMは、今後、厳しい競争に直面する可能性が出てきました。
次に中国のMVNOにフォーカスしてみましょう。中国では3年前、41の事業者にMVNOの事業免許が与えられたのち、MVNOの契約数は4600万に達し、すでに移動通信市場の3パーセントを占めるまでに成長しています。中国では3つのMNOの全てが国有企業であり、MVNO振興は移動通信市場への健全な競争の導入とされています。もう1つ、中国政府の狙いはイノベーションであり、欧州のように多様なMVNOが市場で競い合うことで、新しいビジネスモデルの構築が期待されています。
中国では、上位のMVNOが順調に契約数を伸ばす反面、下位の事業者のなかには採算が合わず、事業継続が危ぶまれているところもあるようです。今のところ撤退した事業者はないものの、新規受注を停止した事業者がいくつもあると伝えられ、各々撤退のタイミングを見計らっていると考えられます。一方、上位8事業者のMVNO契約数のシェアは6割を超えており、今後、勝ち組/負け組が鮮明になると見られています。
イノベーションの観点も見てみましょう。シェア1位の蝸牛移動(スネイルモバイル)は、本業の携帯ゲーム機と通信サービスを融合したビジネスモデルにより、オンラインゲームに熱中する若者を獲得し、契約数を伸ばしています。それ以外の中国MVNOの主戦場は日本同様スマートフォンですが、今後はより独自性を求める動きが加速していくでしょう。
今、中国で注目されているのがモバイルペイメントとIoTです。中国では二次元バーコードを利用したモバイルペイメントが急速に普及しており、MVNOのなかでもプリペイドSIMのチャージにモバイルペイメントを対応させて差別化を図るといった活用が進んでいます。
モバイルペイメントは、IoTの発展にも重要な役割を果たすと見られています。中国で急速に広まっているサイクルシェアリングは、測位モジュールと通信モジュールを自転車に搭載してモバイルペイメントに対応することで、利用者はどこでも料金を精算して自転車を乗り捨てられるイノベーションを生み出しました。MVNOもモバイルペイメントを活用したIoTサービスに注目しており、さらなるイノベーションの創出が期待されます。
これまでMVNOの導入が進んでいなかった新興国のなかにも、MVNOを活用した競争促進が計画されている国が増えています。インドでは昨年、固定通信・移動通信の双方で仮想通信事業者(VNO)のライセンスが新設され、今後、MVNOの市場導入が進むと見られています。イランでは、西側諸国による経済制裁の解除により大規模な海外資本が進出し、移動通信分野でも海外資本によるMVNOの市場導入と競争環境の整備が始まっているようです。メキシコでは、基地局などの無線設備を持つ公営のインフラ会社と、その設備でサービスを提供する民間のサービス提供会社という上下分離をもたらしている通信・放送法の改正(Red Compartida)が進められています。この制度改正により、直ちにMNOとMVNOの差がなくなるわけではありませんが、競争環境の整備に資するとされています。
このように、世界のMVNOは大きな変革をともないながら発展を続けています。IIJによる日本初のフルMVNOの登場は、各国の通信事業者からも熱い視線を浴びており、IIJとしても引き続き世界のMVNOの発展に寄与していきたいと考えています。
※IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.141」(2017年8月発行)より転載