マルチクラウドとは?“失敗しない”導入・活用ポイントを徹底解説

ビジネスや業務の変革と新たな価値創出を目指し、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業が増えています。その基盤として欠かせないインフラが、クラウドです。複数のクラウドを使い分ける「マルチクラウド」を選択する企業も増えています。しかし、そこには課題もあります。どうすれば課題を克服し、メリットを最大化できるのか。マルチクラウドの効果的な導入・活用法を徹底解説します。

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目次
  1. マルチクラウドとは
  2. マルチクラウドがもたらすメリットとは
  3. マルチクラウドの活用例
  4. マルチクラウドで懸念される課題と対策
  5. マルチクラウド導入の進め方
  6. マルチクラウドの導入・活用を幅広く支援

マルチクラウドとは

クラウドを大別すると、クラウドベンダーが提供する商用のパブリッククラウドと、自社で環境を構築・運用するプライベートクラウドがあります。

マルチクラウドとは、目的に合わせて複数のパブリッククラウドを併用する運用形態のこと。同じクラウドベンダーのパブリッククラウドを複数使う形態も、異なるクラウドベンダーのパブリッククラウドを使い分ける形態も含まれます。要は単一のパブリッククラウドの利用にとどまらないということです。

一方、プライベートクラウドもクラウドの一形態ですが、自前の環境であることから、オンプレミスの一種に分類されることもあります。パブリッククラウドと併せてオンプレミスを併用する形態は、ハイブリッドクラウドと言われます。

利用するパブリッククラウドの数が増えれば、必然的にマルチクラウド化していきます。そのため、ハイブリッドクラウドも含めて、広義にマルチクラウドと言う場合もあります。

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マルチクラウドがもたらすメリットとは

多様なクラウドを併用することで、シングルクラウドでは得られない様々なメリットを享受できます。主に以下のようなメリットが挙げられます。

各サービスの“いいとこ取り”が可能

提供する機能は同じようでも、各サービスには、それぞれに特性があります。その特性を活かし、ニーズにマッチしたサービスを組み合わせて利用できます。

1つのクラウドだけでは実現できなかった機能や、自社でシステム開発が必要だった機能も、別のクラウドを併用することで実現できることがあります。少ない手間とコストで、自社に最適なクラウド環境を実現できるでしょう。

ベンダーロックインを回避できる

1つのクラウドだけに依存していると、ベンダーロックインの状態になり、他社クラウドへの乗り換えや切り替えが難しくなってしまいます。マルチクラウド環境なら、多様な選択肢の中から最適なサービスを選び、ニーズや用途が変化したら、別のサービスに乗り換えることも柔軟に行えます。

可用性が向上する

複数のクラウドベンダーを組み合わせれば、あるベンダーのクラウドに障害が発生しても、別のベンダーのクラウドに切り替えて業務やサービスを継続できます。

リスク分散、バックアップ/リカバリを容易に実現できるため、BCP対策やDR対策を強化できます。ミッションクリティカルなビジネス、有料サービス事業者には特にメリットが大きいでしょう。

マルチクラウドの活用例

実際にマルチクラウドはどのように利用されているのでしょうか。具体的な活用例とその効果をご紹介します。

活用例1:国内外に多拠点展開する企業

<現状>
  • 拠点ごとにサーバを保有・運用している。
  • サーバ台数が増大し、管理が煩雑化している。
  • 国内と海外で利用するシステムや運用ルールが異なる。
<マルチクラウド活用例>
  • 国内拠点は国内にデータセンターを持つパブリッククラウド、海外拠点は海外ベンダーのパブリッククラウドを利用する。
<効果>
  • 自社保有のサーバをクラウド化することで、コストダウンと運用の効率化を実現できる。
  • 国や拠点ごとの業務プロセスやセキュリティルールに合わせてシステムをカスタマイズし、業務への影響を回避できる。

活用例2: ホテル・レストランチェーン

<現状>
  • 店舗案内、予約サービスなどのWebサイトをオンプレミスで運用している。
  • キャンペーン実施時にアクセスが集中すると、遅延やダウンが発生する。
<マルチクラウド活用例>
  • オンプレミスのWebサイトシステムをマルチクラウド化する。
  • 比較的安価に利用できるクラウドとオートスケール機能があるクラウドを併用する。
<効果>
  • アクセス集中時はオートスケールで対応することで、遅延やダウンのない安定したサービス提供を実現できる。
  • 通常は比較的安価なクラウドを利用することでコストダウンもできる。
  • 災害時でも、どちらかのクラウドで稼働を継続できるため、BCP対策も強化できる。

活用例3: チケット予約サイト

<現状>
  • 人気歌手のコンサートや大規模イベントの場合は予約サイトにアクセスが集中する。
  • 遅延やシステムダウンの懸念がある。
  • 顧客情報や重要情報はオンプレミスの基幹システムで管理しており、データベースのクラウド化が難しい。
<マルチクラウド活用例>
  • オートスケール機能があるクラウドを利用する。
  • バックエンド業務用のシステムをクラウドに移行する。
<効果>
  • アクセス集中時でもスムーズに予約ができる。
  • バックエンドの処理が高速化され、大幅な業務効率化を実現できる。

マルチクラウドで懸念される課題と対策

マルチクラウドは様々なメリットが期待できる一方、適切に運用しないと、コストの高止まり、運用の煩雑化、セキュリティリスクなど思わぬデメリットを抱え込むことになります。

課題1:コストが高止まりする

<原因>
  • 利用するクラウドの数が増え、管理が追い付かない。
  • どこで、何を、どのように使っているかが分からず、トータルコストの把握が難しい。
<対策>
  • 複数の候補を比較・検討し、よりコストパフォーマンスが高いクラウドを選ぶ。
  • 用途や利用者数、利用頻度などを事前に調査する。重複利用があれば利用部門を集約し、過剰な契約アカウント数があれば適正化し、最適な利用形態を選ぶ。

課題2:運用が複雑化する

<原因>
  • IaaSやPaaSは上位のアプリケーションの運用管理はユーザ側で行う。
  • SaaSはアプリケーションをサービスとして利用できるが、生成されるデータはユーザ側で管理する。
  • クラウドベンダーの運用管理ツールを利用できるが、その機能や使い勝手はベンダーによって異なる。
<対策>
  • 自社内で運用管理や保守を行う場合は、それぞれのクラウドの知識やスキルを身につける。
  • 人材がいない場合は、クラウドに精通した人材を採用したり、運用管理を外部ベンダーに委託したりする。

課題3:セキュリティリスクが高まる

<原因>
  • オンプレミスは境界型防御が一般的だが、クラウドは境界型防御の外にある。境界型防御だけでは、クラウド利用時のセキュリティを確保できない。
<対策>
  • クラウド接続用のセキュアなネットワークを整備する。
  • ログイン認証に加え、認証後のITリソースへのアクセスを権限に応じて許可する「認可」の仕組みを作る。
  • 使われなくなったアカウントを削除し「シャドーアカウント」を防ぐ。

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マルチクラウド導入の進め方

リスクを減らし、マルチクラウドのメリットを最大化するためには、以下のようなステップで導入を考えていくといいでしょう。

1. 問題点の把握

まず現行のシステムや業務を棚卸しし、どのような課題があるかを洗い出します。システムの課題であれば機能改善や運用の見直し、業務上の課題はプロセスや人の役割の変更などで対応できる場合もあります。

課題を明らかにし、本当にクラウド化が必要かを問い直すことが大前提となります。

2. 利用目的の明確化

クラウド化が必要と判断したら、その利用目的を明確にします。マルチクラウドは構成や運用が複雑になりがちです。利用目的を明確にしておかないと、無駄にクラウドの数が増え、コストや運用の手間が膨らんでしまいます。

クラウド化する業務はどれか。目的はコスト削減か運用効率化か、あるいはAIやデータ活用による業務改善やDXの推進なのか。コスト削減など目標が定量化できるものはKPIも定めておくといいでしょう。更にクラウド管理はどの部署が行うのかを決めておくことも大切です。

3. 目的に合ったクラウドを選定

マルチクラウドを利用する目的が明確になったら、それぞれの利用目的に最適なクラウドを選定します。大切なことは、全体のバランスを考えること。価格だけでなく、機能やサポートの充実度などを総合的に判断して決めていきます。

4. 運用・管理体制を整える

多くのクラウドベンダーは、セキュリティに関して「責任共有モデル」を採用しています。クラウドベンダーとユーザが担当する範囲を明確に区分けし、それぞれの範囲のセキュリティに責任を持つ仕組みです。例えばIaaSやPaaSは、その上で動くシステムのセキュリティ対策はユーザの責任で行うことになります。

マルチクラウドを効果的・効率的に活用するためには、このセキュリティ対策も含めて多様なクラウドを統合的に管理できる仕組みが不可欠です。自社で一元管理するのか、外部ベンダーに管理を委託するのか。主管を明確にします。自社で管理する場合は、トラブル発生時の対応フローや責任者まで決めておく必要があるでしょう。

5. 移行計画の立案・実行

オンプレミスのシステムをクラウド化する場合は、システムとデータの移行が必要です。膨大な量のデータを一気に移行するのは難しいため、段階的な移行手法が有効です。移行作業中はシステムが使えなくなるため、業務への影響も考慮する必要があります。

これらを踏まえた上で、何を、いつまでに、どのように移行するか計画を立て、実行していきます。移行対象が複数ある場合は、比較的規模の小さいものからスタートするといいでしょう。成功の確率が高く、そこで得られた課題やリスクは次にフィードバックできます。

マルチクラウドの導入・活用を幅広く支援

マルチクラウドの実現は、紹介した5つのステップで作業を進めていくことが重要ですが、やるべきことは多岐にわたります。システムやデータを移行した場合は、その検証が必要です。運用フェーズに入っても、セキュリティを含むクラウドの管理、現場の活用支援なども必要です。自社のリソースだけでは対応が難しい場合は、パートナーのサポートが不可欠です。

IIJは多様なクラウドの導入と活用を幅広く支援しています。その一環として「クラウド活用ガードレール」というコンセプトを提唱しています。これはクラウドベンダー各社が提供するクラウド導入フレームワーク「Cloud Adoption Framework(CAF)」に基づいたIIJ独自のアプローチ。

例えば、煩雑になりがちなマルチクラウド環境を見える化することが可能です。クラウド上のアプリケーションやITリソースの稼働状況、パフォーマンスなどを定量的に見える化し、問題の早期発見を可能にする「オブザーバビリティ(可観測性)」を実現します。

ベストプラクティスを体系化した多様なソリューションを提供しており、これらを活用することで、“失敗しない”マルチクラウドの実現とビジネスメリットの最大化をサポートします。

どのようなソリューションを提供し、どんなサポートが可能なのか。詳しくはクラウド活用ガードレールのホワイトペーパーで紹介しています。ぜひ参考にしてください。