デジタルトランスフォーメーショ…
データセンターエンジニアリング事業推進を担当し、エッジデータセンターソリューション「DX edge」の企画、開発をリード。マイクロデータセンター、コンテナ型データセンターによる企業の課題解決や、データ駆動型社会の到来を見据えてAI基盤、地域分散型デジタルインフラの普及に取り組む。
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柔軟性・拡張性・経済性を兼ね備えた「コンテナ型データセンター」が注目されています。コンテナ内部に必要な設備を組み込み、完成品として設置できる仕組みのため、ビル型データセンターに比べて設置場所の自由度が高く、短期間で構築できる点が特長です。BCP対策やエッジコンピューティングなど多様な用途に活用できるほか、近年では生成AIの活用基盤としての導入も広がっています。本記事では、コンテナ型データセンターの仕組みやメリット、主要な事例について解説します。
コンテナ型データセンターとは、海上輸送用コンテナや専用筐体の内部に、サーバをはじめとしたIT機器、電源設備、冷却設備、セキュリティ・防災設備を一体化して収容した小規模かつ高機能なデータセンターです。
工場でほぼ完成状態まで製造し出荷されるため、現地での工事期間を大幅に短縮できます。ビル型データセンターが専用建築物を必要とするのに対し、コンテナ型は設置場所の自由度が高く、導入コストを抑えられる点も大きな特長です。

IIJ松江データセンターパークのコンテナ型データセンター
写真左:コンテナ型データセンター外観、右:コンテナ内部
私たちは今、先行きが見通しづらく変化が激しい「VUCA(volatility、uncertainty、complexity、ambiguity)」と呼ばれる時代に直面しています。技術革新のスピードは加速し、DXや生成AIの普及を背景に、社会全体のデジタル化が急速に進んでいます。その結果、あらゆる産業でデータ量が爆発的に増大するだけでなく、より高度でリアルタイムな処理が求められるようになりました。
加えて、世界的な建設コストの上昇や電力供給を巡る不確実性も顕在化し、ITインフラ整備にはこれまで以上にスピードと柔軟性、そして分散配置によるリスク低減が求められています。
このような背景のもと、データセンターに求められる要件そのものが大きく変わりつつあります。生成AIや高密度GPUサーバの普及により、従来の空冷方式だけでは十分な処理性能やエネルギー効率を確保することが難しくなり、水冷(液冷)などの新たな冷却方式が実用段階に入りつつあります。また、エッジコンピューティングの普及によって、必要な場所へサーバを迅速に配置できる柔軟性も不可欠となりました。
つまり、現代のデータセンターには「高密度化」「水冷対応」「リアルタイム性」「迅速な展開」といった、これまでにない多面的な要求が突きつけられているのです。
従来型のデータセンターでは、急速に変化するニーズへの対応が難しくなっています。そこで、新しい要件を満たせる現実的な方法として、コンテナ型データセンターに注目が集まっています。 工場生産による品質の均一化と短工期の実現により、必要な時期に必要な場所へ迅速に展開できる点に加え、高密度サーバ搭載や水冷システムへの対応により、生成AIに適したインフラを柔軟に構築できる点が評価されています。
更に、需要の増減に応じ、モジュールを追加するだけで拡張できるため、投資負担を抑えながら段階的に成長させることが可能です。分散配置が容易であることから、災害リスクや電源リスクを低減でき、BCP(事業継続計画)の観点からも大きな強みとなります。
コンテナ型データセンターには、主に次のようなメリットがあります。
コンテナ型データセンターは、モジュール単位で機能を追加できるため、必要なときに必要なだけ拡張できます。将来の需要増を見据えた投資がしやすく、初期導入時の負担を抑えることも可能です。また、設備の統廃合や役割変更にも対応しやすく、ビジネスの成長や変化に追従できる柔軟なインフラです。
工場にて主要設備を組み込んだ状態で製造し、完成度の高いパッケージとして出荷されるため、現地での施工期間を最小限に抑えられます。ビル型データセンターに比べ、建築確認申請も不要(※1)で、短期間で稼働を開始できる点が大きな魅力です。変化の激しい市場環境において、スピーディなIT/AI基盤整備を実現します。
(※1)2011年に発出された通知では、稼働時は無人であることや複数積み重ねないといった条件を満たせば、建築基準法で定められた建築確認手続きは不要ということが示されています。(「コンテナ型データセンタに係る建築基準法の取扱いについて」国土交通省、平成23年3月25日)
コンパクトで省スペースのため、設置場所の選択肢が広い点もメリットです。既存施設敷地内の空きスペースや工場敷地の一角など、限られたスペースでも設置が可能です。また、移設や再配置ができるため、敷地利用計画に合わせた柔軟な運用が行え、資産の有効活用に貢献します。
生成AIなど新しい技術を迅速にビジネスへ取り入れることが求められる現在、利用可能な土地やスペースを有効に活用し、短期間でITインフラを構築できる点は大きな強みといえます。
大量のデータを生み出す利用者のそば(エッジ)に設置され、データの一次的な処理やリアルタイム性の高い応答を行うためのデータセンターを「エッジデータセンター」と呼んでいます。
IIJでは、コンテナ型データセンターをはじめとするプレハブタイプのエッジデータセンターを「DX edge」(エッジデータセンターソリューション)ブランドで提供しています。お客様のニーズや用途に合わせて、最適なタイプを選択できます。
| ラインアップ | 説明 |
|---|---|
| モジュール型コンテナデータセンター |
サービス:「co-IZmo/I(コイズモアイ)」 20フィートサイズのコンテナに、ラックや空調などデータセンターに必要な設備を内蔵。コンテナモジュールで小規模から大規模まで柔軟に対応できる。クラウド基盤向け10kW/ラックで、コンテナ1台に4ラック格納。
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| マイクロデータセンター |
サービス:「マイクロデータセンター(Zella DC)」 冷蔵庫大のサイズで、サーバや電源、空調、セキュリティなどの機能を一体型で備えている。1マイクロデータセンター=1ラックで屋内、屋外に設置することができ、小さな需要に対応可能(1ラック1.5kW~10kW)。
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| コンテナ型データセンター |
複数のマイクロデータセンターをプレハブや輸送コンテナに格納し、ニーズに応じた柔軟な追加・拡張が可能なソリューション。
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| AI向けモジュール型エッジDC (特許出願中) |
「DX edge Cool Cube」開発中(2025年度末に商品化予定) 生成AIやGPU処理に最適化された次世代型空冷/水冷モジュールデータセンター。1ラック=1コンテナモジュールで、1ラックあたり空冷30kW/ラック、水冷方式では60kW/ラックの電力供給と冷却能力を備える。
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コンテナ型より更に小型で、冷蔵庫ほどのサイズのデータセンターとして注目されているのが「DX edge マイクロデータセンター(以下、マイクロデータセンター)」です。コンパクトながら、サーバ、電源、空調、セキュリティなどの基本機能を集約しており、従来のデータセンターやサーバルームでは設置が難しかった屋内や屋外の様々な場所にも柔軟に展開できます。
導入や運用コスト削減のメリットから、工場の生産システムやオフィスのサーバルームといった従来のサーバルーム用途での導入が増えています。
更に、オンプレミスでAIを使いたいというニーズに対し、発熱量の大きいGPUサーバを導入できる新しいITインフラとして、開発・研究の現場、製造業、AIスタートアップといったお客様でのマイクロデータセンターの導入が急速に進んでいます。例えば、機密データを社外に出さずに対話型の生成AIを活用したいというニーズに、エフサステクノロジーズ株式会社の「Private AI Platform on PRIMERGY」(※2)とマイクロデータセンターを活用することで実現できます。

DX edge マイクロデータセンターの設置イメージ(オフィス内)
遮音性が高く、ミーティングスペースや居室内に設置することも可能

DX edge マイクロデータセンターの設置イメージ(工場内)
IP65の防塵防水性能。省スペースで空きスペースを有効活用できる
また、IIJはシステムインテグレーターとして、デルテクノロジーズ製サーバをはじめとした各ベンダーのサーバやクラウド、ネットワーク環境も含めたITを利用するために必要なサービスをワンストップでご提供します。加えて、お客様は煩わしい管理、運用をIIJにアウトソースできることも魅力の一つです。
IIJでは現在、生成AI向けのGPU搭載サーバにも対応可能なモジュール型エッジデータセンター「DX edge Cool Cube」を、2025年度末の販売開始を目指して開発を進めています。AI利用などのGPUサーバの高性能コンピューティング基盤に適した構成で、これからの新しいITインフラのニーズに応えるデータセンター設備です。空冷(In-Row空調)および、液冷(Direct Liquid Cooling)に対応した1ラックサイズのコンテナモジュールを必要な規模で提供します。
輸送コンテナによるコンテナデータセンターと異なり、既存の倉庫のような場所に容易に構築することが可能です。また、最近のGPU搭載サーバやストレージ機器は奥行きが長くなっており、コンテナ内でのラック配置やメンテナンススペースが課題となります。Cool Cubeは、広くメンテナンススペースを確保できることも特長です。

DX edge Cool Cubeの設置イメージ
サーバラックだけでなく、受電設備やUPS、チラー(熱源)などもモジュール化し、屋外だけではなくプレハブや既存倉庫への設置を想定

「Data Center Japan 2025」で展示した「DX edge Cool Cube」試作品
生成AIや低遅延通信が求められる現場に最適なソリューションとして来場者の注目を集めた
IIJが提供する小型データセンターのなかでも、DX推進や生成AI普及を受けて、引き合いが増えているのが冷蔵庫サイズのマイクロデータセンターです。
AIの学習や推論に伴う膨大なデータ処理をクラウドで行う場合、ネットワーク遅延が生じやすく、リアルタイム処理が難しいという問題があります。またクラウドサービス利用料も高額になり、ネットワーク増強にもコストがかかります。
これらを解決する手段として、データ処理を現場のオンプレミス・サーバ(エッジ)で補う「エッジAI」が注目されており、そのITインフラとしてエッジデータセンターの需要が高まっています。マイクロデータセンターにGPUサーバやストレージを収容し、工場内の空きスペースにも設置できる点、また短納期で構築が可能な点も、導入を後押しする要因となっています。
物流倉庫では、自動ピッキングロボットなどリアルタイム制御が求められるシステムが稼働しており、ネットワーク遅延の発生を最小化するためオンプレミスの管理サーバ設置が必要です。しかし、多くの倉庫には専用サーバルームがなく、セキュリティや耐環境性、運用性に課題があります。
こうした課題を解決する手段として、倉庫内や敷地にマイクロデータセンターを設置することで、現場近くでの処理が可能となり、ネットワーク遅延を抑えリアルタイム性を確保できます。更に防塵・防水性能(IP65)を備え、省スペースのため、屋内外問わずどこでも設置可能。工事費を抑え、短期間でサーバルームを構築できます。
太陽光パネルと蓄電池または発電機による自立給電システムと、「Starlink」などの地球規模の衛星通信を組み合わせることで、地球上のどこにでもマイクロデータセンターを配置し、サーバを運用できるようになります。離島や人里離れた遠隔地、インフラの整っていない地域など、これまで活用が難しかった地域でのユースケースも広がります。