データセンターとはどういうもの…
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SDGsに代表されるサステナブルな社会の実現に向けて、省エネや脱炭素化が強く求められています。この波はデータセンターにも押し寄せ、「グリーンデータセンター」の注目が高まりつつあります。そもそもグリーンとはどういうことなのか。企業がそれを利用することで、どのようなメリットが期待できるのか。グリーンデータセンター選びのポイントとともに、新トレンドを徹底解説します。
デジタル化が進めば進むほど、データセンターの重要性は高まります。世界のデータ通信量は2030年までに年平均3割増での拡大が見込まれており、データセンターは大型化の動きが顕著です。当然、その消費電力も増加傾向にあります。
世界のデータセンターの電力消費量は、現在、総電力の約3%と言われますが、次世代グリーンデータセンター協議会は、2030年にそれが10%を大きく超えると予想しています。
一方で、近年はSDGs(持続可能な開発目標)の一環として、省エネや脱炭素化が強く求められています。日本政府が公表した「グリーン成長戦略」には幅広い産業分野での目標が設定され、データセンターには以下の目標が掲げられました。
経済産業省も「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトの一環として、データセンターの40%以上の大幅な省エネ化を後押ししています。こうしたことから、近年注目が高まっているのが「グリーンデータセンター」です。
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グリーンデータセンターとは、最適なエネルギー効率を実現し、環境への影響を最小限に抑えたデータセンターのこと。
グリーンであるかどうかの評価には、データセンターの電力効率を表す「PUE(Power Usage Effectiveness)」が用いられます。PUEとは、IT機器や空調・照明設備などデータセンター全体の消費電力量(kWh)を、収容するIT機器の消費電力量(kWh)で割ったもの。IT機器にはサーバやストレージ、管理用端末、ネットワーク機器などが含まれます。
PUEの値が小さいほど、データセンターの電力効率が良いとされています。究極の理想は「PUE 1.0」の状態。まったく無駄のない最適なエネルギー効率を実現していることになります。
グリーン化が叫ばれる以前の一般的なデータセンターは「PUE 2.0」と言われます。2022年4月時点において、資源エネルギー庁は目指すべき水準を「PUE 1.4以下」と設定しています。これがグリーンであるかどうかの1つの基準と言えそうです。
データセンターをグリーン化するには電源・照明・冷却設備などファシリティ面の省エネ、IT機器の省エネ、グリーンエネルギーの活用などが不可欠です。
ファシリティ面で最も電力を使用するのが、冷却設備です。このエネルギー削減策に広く用いられているのが、外気を利用して冷却する方法です。これによって、多くのエネルギーを使用するコンプレッサーや冷凍機の稼働時間を抑制します。
外気冷却には、直接外気冷却方式と間接外気冷却方式があります。直接外気冷却方式は、外気で直接IT機器を冷却する方法。効率面で優れていますが、外気が直接IT機器に吸気されるため、空気質が悪い環境には適していません。間接外気冷却方式は、外気がIT機器に直接吸気されないように熱交換器を用いて冷却します。直接外気冷却方式に比べ効率は劣りますが、空気質が悪い環境でも使用できます。
外気の温湿度は季節や時間帯によって変動するため、いずれの方式も空調モジュールによる制御が必要です。この空調モジュールが外気の変化に応じて、外気をそのまま利用したり、外気が低すぎる場合はIT機器の暖排気を混合したり、コンプレッサーや冷凍機を組み合わせたハイブリッド運転を使い分け、適した温度に調整しています。近年はこの制御をAIで最適化する技術の開発も進んでいます。
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電源設備の省エネの取り組みとしては、「三相4線式」を用いた配電方式が挙げられます。現在国内で広く採用されている「三相3線方式」と比較して、トランスを用いた降圧が不要なため、変圧器でのロスが削減でき、給電効率の面で有利な方式です。さらに変圧器自体の費用削減やスペースの有効活用にもメリットがあるため、近年国内でも注目を集めています。
三相4線方式については、こちらでも詳しくご紹介しています。
IT機器に関しては、多くのベンダーがエネルギー効率を高めたサーバやストレージ、ネットワーク機器を提供しています。こうしたIT機器を活用することで、電力消費を抑えることができます。
そして、グリーンエネルギーと呼ばれる、CO2を排出しない電力を使う再生可能エネルギーも注目を集めています。太陽光発電、水力発電、風力発電、地熱発電などがあります。発電に利用できる自然環境が多くある日本には大きなポテンシャルがありますが、設備投資や用地確保、発電コストなどが大きな課題となっています。先行しているのが太陽光発電で、データセンターの建物や敷地内で発電を行うオンサイト型のデータセンターが増えつつあります。
更に、データセンターのグリーン化を推進する一つの手段として、蓄電池の活用も進んでいます。発電量は限られますが、災害時のバックアップ電源、ピーク電力の低減など電力需給の調整役として有用です。
海外では先進的な取り組みが進んでいます。例えば、シンガポールの大手データセンター事業者であるケッペルDCは、海上に浮かぶ「フローティングデータセンター計画」(※1)を2018年に発表。陸上の用地不足を補い、冷却用水に海水を利用することで、エネルギー消費効率の向上を目指します。
(※1)https://www.keppeldatacentres.com/innovations/floating-data-centre-park/
更に一歩進んで、陸上に比べて温度の低い海中にデータセンターを建設する構想もあります。この急先鋒の1社が、Microsoftです。2018年に水深117フィート(約36メートル)の海底にコンテナサイズの密閉型データセンターを設置。性能や信頼性、エネルギー消費効率などの実証を続けています。
グリーンエネルギーの開発・利用が盛んなアイスランドでは水力、地熱、風力発電によってデータセンターの全電力を賄っています。ヨーロッパ最大の水力発電規模を誇るノルウェーは、水力発電の電力をデータセンターに活用しグリーン化を進めています。
グリーンデータセンターの海外事情については、こちらでもご紹介しています。
東京証券取引所のプライム市場に上場する企業には、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティへの対応及び開示が求められます。環境に対する社会の意識も高まっており、「グリーン」であることが消費者や企業取引の判断材料の1つになりつつあるのです。
エネルギー効率の高いグリーンデータセンターを利用することは、サステナビリティな企業姿勢を対外的にアピールでき、企業価値の向上につながります。そうした企業で働く従業員のモチベーションや環境意識の向上も期待できます。電力コストの削減につながるため、経済的にも大きなメリットがあります。
サステナビリティに前向きに取り組むことで、そうした企業のエコシステムに参入することもできます。新しい業界や企業と接点を持つことで、ビジネスチャンスの広がりも期待できます。
データセンターのグリーン化は国内でも着実に進められています。その中で先進的な事業者の1社がIIJです。2030年度におけるデータセンターの再生可能エネルギー利用率を85%まで引き上げ、データセンターのPUEを業界最高水準の1.4以下にすることを目指し、取り組みを進めています。
その“実践の場”が千葉県白井市にある「白井データセンターキャンパス」(以下、白井DCC)と、島根県松江市にある「松江データセンターパーク」(以下、松江DCP)です。
白井DCCでは蓄電池の運転制御機能を持つ米テスラ社製の産業用リチウムイオン蓄電池Powerpackを2019年11月に導入。2020年8月には全体の電力需要に対し、10.8%の電力ピークカットを達成しました。更に直接外気冷却をベースとするハイブリッド空調に様々な工夫を施し、送風動力を約3分の1に削減しました。
松江DCPでは先進的な空調モジュールを採用した外気冷却方式により、従来の空調方式より約40%消費電力を削減することに成功しました。
IIJでは今後も複数の発電所群、蓄電設備、需給制御などを組み合わせたグリーン化技術の開発や実証を進め、その成果を自社データセンターの改修・新築に適用していく予定です。
IIJの取り組みについては、こちらでもご紹介しています。
グリーンデータセンターは今後のIT業界において大きなトレンドの1つになるでしょう。
<よくあるご質問>
グリーンデータセンターとは何ですか?
グリーンデータセンターとは、最適なエネルギー効率を実現し、環境への影響を最小限に抑えたデータセンターのこと。グリーンであるかどうかの評価には、データセンターの電力効率を表す「PUE(Power Usage Effectiveness)」が用いられます。PUEとは、IT機器や空調・照明設備などデータセンター全体の消費電力量(kWh)を、収容するIT機器の消費電力量(kWh)で割ったもの。IT機器にはサーバやストレージ、管理用端末、ネットワーク機器などが含まれます。