茨城県常総市 JOSOシステム災害時を想定した多職種連携ネットワーク

大きな水害を経験した茨城県常総市では、災害時の活用も考慮して、高齢者支援や医療福祉連携を支える情報共有基盤として「電子@連絡帳 JOSOシステム」の運用を開始した。
今回はその進捗状況や課題などをうかがった。

茨城県常総市 保健福祉部
幸せ長寿課 課長
秋葉 利恵子 氏

目次
  1. 平成27年9月の関東・東北豪雨を経験して
  2. JOSOシステムの現状
  3. より安心なシステムを目指して

茨城県常総市では、平成27年9月の関東・東北豪雨により、鬼怒川の溢水や堤防決壊が生じ、市の面積の三分の一にあたる約42平方キロメートルが浸水。8300棟以上の住宅が被災し、39箇所の避難所に最大6200人以上が避難するという深刻な被害がもたらされた。

平成27年9月の関東・東北豪雨を経験して

——まずは、常総市さんが「電子@連絡帳 JOSOシステム」(以下、JOSOシステム)を導入された経緯から教えていただけますか。

秋葉

平成27年9月の関東・東北豪雨では、水害がまだ発生していなかった初期の段階で避難された方は「雨がやんだら、すぐに帰れるだろう」という程度の軽い気持ちだったためか、高齢者の大半が、内服薬もお薬手帳も持たずに避難されていました。

そうこうしているうちに水害が発生し、しばらくは自宅に帰れそうにないということが明らかになってきた。そこで、当面のお薬を用意しなければならなくなり、一人ひとりにお薬について確認していったところ、自分がどんな薬を飲んでいるのかわからなかったり、病名すらハッキリしない方もいらっしゃいました。

水害が発生してから避難された方は「(避難が)長くなる」という覚悟をお持ちだったので、お薬なども持参されていたのですが。

——早い段階で避難された方のほうが、お薬の調達の面で苦労されたのですね。

秋葉

そうです。次の段階では、かかりつけ医を聞いて電話をしてみたのですが、すでに電話がつながらなかったり、電話がつながっても、病院も被災していて、電子カルテを見ることができない状況でした。

薬の手配に手間取っているあいだにも、体調が悪くなる方が出てきました。正確な病状や経過がわからないために処方箋も薬も出せなかったり、なかには自分からは病名を言い出しにくい病気をお持ちの方もいらっしゃった。結局、私が勤務していた避難所では、お薬の調達に三日ほどかかりました。

こういった経験を経て、「災害時に電子カルテは使えない」とか、「一人ひとりの正確な医療情報を共有できていれば、もっと早くに適切な対応がとれたはずだ」といった課題が明らかになりました。そうした課題を在宅医療に精通した医師に話したところ、医師会にも伝わり、県医師会で調査した結果、「IIJ電子@連絡帳サービス」を見つけてくださり、モデル事業につながりました。これを踏まえ、当市でも導入することになったのです。

JOSOシステムの現状

——平時の多職種連携において、JOSOシステムをどのように活用されているのですか?

秋葉

活用の機会・場面を増やしている段階です。例えば、在宅医療に関わっているお医者さん、看護師さん、ケアマネージャさんたちの情報発信・共有ツールとして活用していただいたり、我々から研修などのお知らせをする際にも使用しています。

一方、当市では、JOSOシステムを災害時の情報共有にも活用したいと考えています。そこで、介護保険の申請をする際に、JOSOシステムの仕組みや用途を説明して、同意をいただいた方の情報は、平時の多職種連携につながっていない方についても、災害時には必要な情報を共有し、開示できるよう準備をしています。

同意をとり始めたのは2019年1月からで、現在、1800人の方に同意をいただいています。なお、介護保険の有効期間は最長三年なので、あと約二年で要介護・要支援認定を持っている方への確認がおおむね完了します。

——JOSOシステムを在宅医療・介護の現場で利用されて「便利だな」と感じられた点はありますか?

秋葉

ケアマネージャさんのなかには「お医者さんとの連携が苦手」という方がけっこういらっしゃいます。お医者さんが使う専門用語がわからなかったりするからです。一方、お医者さんも、ケアマネージャさんとやり取りすると、用語の説明に時間をとられるので、あいだに看護師さんが入ってくれたほうがいいという方がいらっしゃる。そんな時、JOSOシステムを通して、お医者さんと訪問看護やデイサービスの看護師さんに直接やり取りしてもらえれば、ひも付けされているケアマネージャさんも、そのやり取りを見ることができます。それによって、ケアマネージャさん自身の勉強にもなり、重要な情報の共有もできて、結果的に医療サービス全体の底上げにつながると考えています。

あとは、インターネットならではのメリットとして、動画や写真を送れるので、リハビリの指導や時々しか出ない症状など、口頭だけでは説明しにくい情報も伝えやすくなると思います。

——災害時にJOSOシステムを使ってみて、見えてきた「課題」などはありますか?

秋葉

先だっての台風19号の時、JOSOシステムを使って情報連携を行なったのですが、いくつか課題が見えてきました。まずは「スムーズな情報伝達」に関してです。

常総市では、セキュリティの観点から、法人所有の機器にしかJOSOシステムを入れることができないようにしています。台風一九号は夜中に関東地方に到達したうえに、たまたま週末であったことから、JOSOステムが入っている法人所有の機器を自宅に持ち帰れない事業所が多く、肝心の情報がリアルタイムに伝わらなかったところもありました。つまり、情報伝達にムラが生じたということです。この経験を踏まえて、夜間や週末でも持ち出すことができる端末を準備してくださる法人さんが増えています。

もう一つの課題は「避難された方の名簿の突き合わせ作業」に関してです。要援護者の安否確認のため、避難された方に関するデータベースとして「市が持っている要援護者台帳に載っている情報」と「避難所で情報収集した名簿」を突き合わせるのに、かなり時間がかかりました。

——平時の情報と災害時の情報を結びつけたわけですが、具体的にどういった作業に時間がかかったのですか?

秋葉

基本的なところでは、避難所で情報を集める際、生年月日やお名前の表記などが不正確だったり、もとになるデータベースと照合可能な情報を集めていなかったために、確認に時間がかかりました。

ですから、JOSOステムの情報を閲覧する時も、あいうえお順で名前が出てきたり、安否を確認できた人がどの避難所にいるのかを入力でき、ケアマネージャさんなどと情報を共有できるようになれば、さらに便利だと思います。平成27年の水害では、ケアマネージャさんが全ての避難所を回って、自分の患者さんの安否を確認しました。なので、患者さんが今、どこにいるのかわかるだけでも、安否確認がずいぶんスムーズになると思います。

より安心なシステムを目指して

——多職種連携の仕組みを災害時に活用する取り組みは、まだまだこれからだと考えています。JOSOシステム、ひいては「IIJ電子@連絡帳サービス」に対してご要望などがあれば、教えてください。

秋葉

すでに機能としてはあるのかもしれませんが、災害時に、どの医療機関で、どんな治療ができるのか——例えば「レントゲン、撮れます」とか、「MRI検査、可能です」とか、「すぐに診察できる歯科医」といったふうに、手を挙げてくださる医療機関が自分たちで情報を出せるようになれば、もっと効率的に患者さんを案内できると思います。

あと、避難所に避難しておらず、安否が確認できていない方のご自宅が防災マップ上にマッピングされたりすると、直接自宅を訪問して安否を確認する際などに、とても助かります。実際、災害が発生すると、土地勘のある地元の職員は、さまざまな対応に追われて、直接の安否確認には行けなくなります。そういった時にも、行き先が地図によってビジュアル化されていれば、ほかの市区町村から応援に来てくれた職員さんや、自衛隊、ボランティアの方に安否確認をお願いでき、非常に助かると思います。

それから、これもすでに活用されている自治体もあるようですが、GPSには関心があります。実は、常総市でもGPSの貸し出しを行なっているのですが、まだ浸透していません。特に冬場は、認知症患者さんが行方不明になると、命に関わるケースも考えられますので、JOSOシステムにも複数機材で同時に確認できるGPSの機能があればいいと思います。

——大きな災害を経験された常総市さんならではの知見がたくさんあり、とても参考になりました。ありがとうございました。

特集イラスト/高橋 庸平

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※IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.156」(2020年2月発行)より転載」