「経営に資する情シスになるための思考転換のヒント」イベントレポート(前編)

ITの活用なくして企業の成長を実現することが難しい時代となった昨今、情報システム部門にはリーダーシップを発揮し、IT戦略を牽引することが期待されています。しかし実際の現場では、IT部門が業務部門の下請け状態になっていたり、コストセンターと見なされていたりと、社内におけるポジションの確立が難しく、多くの課題を抱えお悩みの方も多いのではないでしょうか。

こうした課題へのヒントを探るため、2023年9月21日に「情シスが変革のリーダーシップをとるには」をテーマとしたセミナー「IIJ Motivate Seminar」を開催。ファーストリテイリングやRIZAPのCIO(最高情報責任者)を歴任したISENSE株式会社の岡田章二氏に登壇いただきました。

前半は岡田氏による「経営に資する情シスになるための思考転換のヒント ~情シスが変革のリーダーシップをとるには~」と題した講演、後半はIIJの向平と共に、視聴者から寄せられた質問に回答するQ&A・トークセッションの2部構成で展開されました。本記事ではこのセミナーの模様をお届けします。

目次
  1. 経営に資する情シスになるための行動規範
  2. “業務部門の要望を鵜呑みにしてはならない”理由
  3. 経営、業務部門、情シスの関係性
  4. 下請け情シスにならないために
  5. これからの情シスリーダーに必要な“思考の転換”

ISENSE株式会社 代表取締役社長 岡田 章二 氏
1993年、黎明期のユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)に入社。グローバル企業になるまでの24年間にわたり、業務改革とシステム化を推進。日本初SPAのビジネスモデルのシステムを構築したのち、EC立ち上げやグローバル経営を行うための仕組みを構築。その後RIZAPグループ株式会社の役員を経て、2019年 情報テクノロジーを企業経営に活かすことを事業目的にISENSE株式会社を起業。これまでCIO of The Year 2007 特別賞や、IT Japan Award 2018 を受賞し、経済産業省 IT経営協議会委員も務めてきた。現在はDX推進に留まらず、数社の取締役や、経営アドバイザー、基幹系プロジェクトの立て直し、次世代リーダーの育成などを幅広く支援中。

経営に資する情シスになるための行動規範

岡田氏:

本日のセミナーは、情シスの皆さんに課題解決のヒントや活力を得てもらえる場にしたいという想いで開催されていると聞いています。私自身も情報システム部門に30年弱携わっていた身ですが、最近では情シスが下請けや御用聞き化してしまっているという話を非常によく耳にします。情シスに元気になってもらうことは日本の未来にとっても良いことだと思います。本日このようなテーマでお話する機会をいただけたことを非常に嬉しく感じています。

本題に入る前に、私のバックグラウンドについて少しご紹介しておきます。最初はSIerでソフトウェアを提供する仕事をしていまして、事業とITの両方に携われる環境を求めて27歳の時にファーストリテイリングに転職しました。ユニクロの店舗数が73店舗ほどの規模だったころです。そこで25年ほど勤めた後、次は経営者の立場で事業に携わりたいと思い、50歳を過ぎてRIZAPグループに移りました。これらの経験から、情報システムの仕事には「経営」「業務」「組織」といった様々な思考が必要であると気付き、今度はこの知見を色々な企業に提供していきたいと考え、2019年にISENSEを設立しました。

当時、「ITコンサルティング会社を作るんですね」と言われたのですが、私はそれを否定しています。私自身も、事業会社のIT責任者としてこれまで多くのコンサルタントの方と仕事をしてきましたが、その大半が価値を感じにくいものだったのです。私の会社では、そのときの経験を反面教師として“こういうふうにはなってはいけない”という「逆行動規範」を定めているのですが、今日はこれに倣い「情報システムを元気にする」というテーマに沿って、「情報システムが取るべき行動規範」を考えてみました。

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デジタルの時代になり、情報システムを活用しなければ改革は推進できない時代に変わってきています。しかし、今の情報システムの多くは下請けや御用聞きと呼ばれたりして、なかなか改革リーダーになれてない現状があると思います。ここに示した「行動規範」を実現するには、会社内の仕事のやり方を変えるようなリーダーシップを取っていかなければなりません。情シスがそういった立場になっていくことが必要なのです。

“業務部門の要望を鵜呑みにしてはならない”理由

岡田氏:

「行動規範」で示した3点を踏まえ、なぜそうした事態になっているのか、そしてどうやって変わっていくべきなのかをお話ししていきたいと思います。

まずは、事業部門の要望を鵜呑みにしてはならない理由についてです。多くの会社にはセクショナリズムが存在し、他部署の業務に口出しできない状況があります。ですから、全社目線で改革の要件を整理できる人材がほぼ存在しないのが実態です。更に、組織がサイロ化されていると部分最適になりがちで、何か改善をしようとしても議論の場に出てくるのは業務に詳しい担当者の方々になり、その時点で大きな変化は起こせなくなってしまいます。

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では、なぜセクショナリズムが生まれるのでしょうか。残念ながら大企業は、歴史的にセクショナリズムを生みやすい構造になっているのです。日本では、年功序列・終身雇用が定着しており、職務分掌があります。また、職務権限決裁権やそれに対する役職手当までつくため、中間管理職は自分の配下の組織に対する絶対権力を持ってしまいます。評価は上司次第になってくるので、上司が理解できないような変革は絶対できず、これにより顧客ではなく上司の方を向いて仕事をするという状態に陥ってしまうのです。こうした状況に立ち向かわなければならないというのが、いまの会社の実態です。

経営、業務部門、情シスの関係性

岡田氏:

組織の話をもう少し深掘りして、「経営」「業務部門」「情報システム部門」の関係性についてお話ししていきたいと思います。

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日本の多くの会社で、3者が分断している状態にあるのではないでしょうか。経営はITへの知見がなく現場任せの無関心状態に。業務部門は経営からの“よろしくやってくれ”に従い、システムに対する不満をぶつける無責任状態に。そしてシステム部門は経営との対話が上手くいかず、業務部門のニーズを実現することにコミットする流れとなり下請け状態に。こうして、お互いに不満を抱く関係になってしまっています。

さて、このバラバラの3者を連携させなければいけません。多くはCIOやプロジェクトリーダーなどが、この役割を担い変革の推進者となります。ただし、その人任せにするのではなく、きちんと3者を含めた全社で取り組む必要があります。

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優秀な経営者の方々の声を聞くと、彼らは次のように話します。システム作りは社員の働き方を変える根幹となるため経営の役割であり、業務部門の幹部は仕事の半分を“仕組み作り”に費やすべきで、システム部門は受け身ではなく現場以上に現場を知って業務を作り直す気概をもって向き合わねばならない、と。

特に経営者は「働き方を決める仕組み」となるようなシステムには積極的に介入すべきです。システムは大きく2型に分類でき、業務効率を高めるための「便利ツール型」と、基幹システムのような「業務プロセス型」に分かれます。特に後者は会社の継続性にも影響するものですから、より一層の全社目線が必要です。経営がある程度主導して推進していかなければいけない仕事だと考えます。

下請け情シスにならないために

岡田氏:

日本とアメリカのIT人材の分布を比較してみると、日本では約7割の人材がITベンダー側にいるのに対し、アメリカではユーザ企業側にいる人材が大半で、ITベンダーはその半数程度という違いがあります。ITベンダーに人材が偏っている日本の場合は、企業のシステム対応は人任せになりがちで、「IT部門」の位置付けが「IT開発」ではなく「ITの窓口」になってしまっているのです。

では、情報システム部門が変わるにはどうしたら良いのでしょうか。私の根本にあるのは、ファーストリテイリング時代に学んだ「業務=システム」という考え方です。これを私なりにまとめると次のようになります。

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今の仕事の仕方を変えて、業務に寄り添い、経営者と経営課題について議論できるようになっていくというステップを踏むしかないということです。

これからの情シスリーダーに必要な“思考の転換”

岡田氏:

これからを担う情報システムの皆さんに向けて「Stay Simple」という言葉を贈りたいと思います。

  • なるべく作らない
  • 100点満点は⽬指さない
  • 業務ユーザの満⾜は諦める
  • “最後までやり切る”ことに拘らない
  • 声の⼤きい⼈の声を聞かない

これらを意識すると、投資コストやランニングコストが従来よりも安くなり、早く実現でき、属人的になりにくく、軌道修正もしやすい環境になります。例えば昨今DXの取り組みが盛んですが、これは本来、成果が出るのかどうか分からないものなのです。成果が出ないと判明した瞬間に、止めるという考え方が非常に重要になってきている時代です。最後までやることにこだわらなければ、儲からないデスマーチを途中で止めたり、計画を変更したりできます。小さい失敗をたくさんすることは非常に重要ですし、成果の大きいところに投資を集中できるようにもなる。

このように、「シンプルに仕事を進める」ということをぜひ考えて、これまでの価値観を少し変えてみてはいかがでしょうか。


2部:視聴者参加型のQ&A・トークセッションの様子は、後編でお届けします。