「情報システム部門のための社内プレゼンス向上のヒント」イベントレポート(前編)

デジタル化が叫ばれるいま、情報システム部門に求められる業務範囲は「新規システムの導入/開発」「既存システムの保守/運用」「IT サポート」「インフラ」「セキュリティ」更にはDXなど幅広く、“何でも屋”になってしまっているという組織も多いのではないでしょうか。
また、重要な業務を担う存在である一方で、社内では「評価されづらい」「立場が低い」といった状況に苦労しているという声も聞こえてきます。

2023年6月23日に「情報システム部門のための社内プレゼンス向上のヒント」をテーマに開催したオンラインセミナー「IIJ Motivate Seminar」では、IT戦略やDX戦略の立案推進に従事する、株式会社コーセー 経営企画部 DX推進担当部長 兼 情報統括部 グループマネージャーの進藤広輔氏が登壇。前半は進藤氏による「「情シス」が変わり会社を変える。これからの「情シス」が進むべき道」と題した講演を、後半はIIJの向平と共に、視聴者から寄せられた質問に回答するQ&A・トークセッションの2部構成で展開されました。本記事では、このセミナーの模様をお届けします。

目次
  1. そもそも情シスは本当に必要なのか?
  2. 情シスが抱えるジレンマ
  3. 情シスが目指すべき姿
  4. コーセーの情シス(情報統括部)の事例
  5. 今後に向けて

株式会社コーセー 経営企画部 DX推進担当部長 兼 情報統括部 グループマネージャー 進藤 広輔 氏
AT&T⇒LAWSON⇒AWS⇒コーセー(現在)2020年2月にコーセーに入社。前職のAWSでは、企業のDXの礎となるクラウド化の推進を支援。コーセーに入社後は、コロナ禍への対応をビジネスとシステムの両面から進めると同時に、各種DXプロジェクトを牽引。ビジネスとシステムの架け橋として活動中。

そもそも情シスは本当に必要なのか?

進藤氏:

本題に入る前に、最近流行りのChatGPT-4に「情シスとは何をする部署か?」「情シス不要論はなぜ生まれるのか?」など、いくつか今回のテーマに関連した質問をしてみました。ここで興味深かった回答があります。「生成系AIの影響を受ける職種トップ5は?」という質問に対し、次の5つが挙げられました。

  • ライター、コンテンツクリエイター
  • カスタマーサポート、チャットボットエージェント
  • データサイエンティスト、データアナリスト
  • デザイナー、クリエイティブエージェント
  • 法律家、契約担当者

新卒の方々に人気の高いものも含まれていますね。これまで花形だったポジションであっても、AIが得意な分野であれば職種自体がなくなってしまう可能性もあるということです。こうした世の中の移り変わりも意識しながら、情報システム部門はどうあるべきかという観点をお話していきたいと思います。

情シスが抱えるジレンマ

進藤氏:

私は情シスの方との交流の機会が多くありますが、皆さん同じように感じていることに気付きます。それは、情シスが抱える息苦しさやプレゼンスの低さは、何か1つの問題によって引き起こされているのではなく、構造的な問題や課題によって今の状態になっているということです。7Sのフレームワークに当てはめて、私なりに次のように整理してみました。

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このように、様々な観点が積み重なって構造的な課題となっており、何か1つを解決すれば今の情シスが抱えている問題がすべて解決するというものではないということを、自分自身も再認識させられました。また「現状/課題」をそのまま課題として捉えて改善策を図ろうとしても、必ずしもそれが成果に繋がらないというのは、皆さんもよく経験されているのではないでしょうか。大切なのは、この「現状/課題」を引き起こしている真の原因を、きちんと突き止めることです。

このように見てみると、真の原因はIT領域に限った話ではなく、日本企業の伝統的な側面により引き起こされている可能性が高く、なかなか一筋縄ではいかないということが分かります。そして情シスが抱えるジレンマは、あらゆる「リソース」を起点とする問題が多いことに気付きます。

情シスが目指すべき姿

進藤氏:

では、こうした環境の中で情シスのプレゼンスを上げるには、どうしたら良いのでしょうか。情シスは企業におけるIT全般を司る組織です。経営活動を支えるための “守り”と 、テクノロジーとデータを活用し競争力を高める “攻め”。両方のバランスを強く意識する必要があります。

そしてもう1つ、我々情報システムに係る人間が意識しなければいけない大事なこと。それは、自分たちが唯一無二の存在だと強く自覚することです。今の会社において、システムなくして経営が成り立つシーンは一切ありません。自分たちがエンジンでもあり、ハンドルでもあるという自覚を持ち仕事に取り組んでいくことが、情シスのプレゼンス向上にも、会社の業績を上げていくためにも大事なことではないでしょうか。そのために、情シスに必要な資源は次の図のように変化していくと考えます。

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これらの“プラスα”を実現するためにあるべき情シスの組織形態は、組織規模や体力、または事業部門のIT/デジタルに対するリテラシーなどによって、柔軟に変化させる必要があります。情シスはビジネスとシステムを結び付けられる大きな機能です。テクノロジーだけでなくビジネス側にも踏み出していくことが、これからの情シスの価値を高める大きなポイントとなるでしょう。

コーセーの情シス(情報統括部)の事例

進藤氏:

我々コーセーの情報統括部は5つの課から成り、それぞれが対になる業務部門と1対1で向き合っている組織形態です。また、新卒・中途採用と併せて事業部門からの異動者を募るなど、組織の活性化にも取り組んでいます。ですが、やはりまだ新しいことへのチャレンジは十分ではありません。次のように8つの資源の観点から課題を捉え、その解決を図るべく一人一人の意識の変化に取り組んでいるところです。こうした動きを計画的に遂行するため、IT戦略で重視するポイントも「技術的戦略」から「組織/人材戦略」へと変遷を遂げています。

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「テクノロジー/システム」の観点で実施した内容についても少しご紹介します。以前は業務システムごとに機能をすべて作り込んでいましたが、システムのハブになる機能を集約し共通基盤化を行いました。また、システムパターンを標準化することでスピードアップを図り、フレームワークからネットワークまでの範囲を抽象化して、ビジネスロジックに集中できるようにしています。他にも、開発におけるノーコード・ローコードの優先や、サーバレスの方針を定めています。

「組織/人材」の観点での取り組みとしては、プロジェクト制を敷いたり、CoE(Center of Excellence)を確立したりして、経営リソースの集約を図っています。そして情報統括部のスキルマップを定め、個人の志向に応じたキャリアプランを形成できるようにしています。例えば、システムに興味のないビジネス系の人材にも、情報システム部門におけるキャリアの道があるということを示しています。

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今後に向けて

進藤氏:

今後我々が目指す「組織/人材」のあり方として、強い個と多様性を兼ね備えた集団でありたいと考えています。そのために必要なのは、テック系に偏らず、ビジネス系のスキルもしっかりと身に付けられるような組織と環境。また、トップの想いや考えがダイレクトに伝わり、情報格差がメンバー間で生まれないオープンでフラットな環境づくりも、組織として機能的・効率的であるためには重要です。

企業戦略に貢献していなければ、コスト部門と捉えられてしまいます。いかにビジネスに直接貢献できる範囲を増やしていけるかが、我々のこれからの大きな命題になってくると思います。


進藤氏は最後に「情シスの進化で、企業の進化を促していきましょう。」と語り、前半の講演セッションを締めくくりました。

2部:視聴者参加型のQ&A・トークセッションの様子は、後編でお届けします。