2023年12月21日に開催さ…
ITの活用なくして企業の成長を実現することが難しい時代となった昨今。最近では生成AIやノーコード/ローコードツールなど、新しいテクノロジーを取り入れることが企業の変革にとって重要な要素となっています。一方で、組織としてこうした取り組みを誰がどのように推進していくのか、またセキュリティ面の懸念をどう考えるのか、といった課題を抱える企業も多いのではないでしょうか。
こうした課題へのヒントを探るため、2023年12月21日に「社内に最新のテクノロジーを取り込むための情シスの役回り ~推進のコツと社内アプローチの手法とは~」と題したセミナー「IIJ Motivate Seminar」を開催。日清食品ホールディングスでCIOを務める成田敏博氏と、デジタル化を推進する山本達郎氏のお二方に登壇いただきました。
はじめに成田氏より、生成AI活用プロジェクトの概要や情報システム部門の組織体制についてお話いただいた後、山本氏からは生成AI導入後の社内への推進アプローチについて、具体的な取り組み例をお話いただきました。そして最後は視聴者から寄せられた質問に回答するQ&A・トークセッションが展開されました。本記事ではこのセミナーの模様をお届けします。
成田氏:
日清食品グループでは、数年ほど前からグループ全社に様々なクラウドサービスやローコードツール、生成AIなど新しいテクノロジーの導入を推進しています。本日はこれらの取り組みと社内へのアプローチ手法について、皆さんに共有したいと思います。
お話するのは大きく2点です。1つ目は、日清食品グループが現在進行形で取り組んでいる生成AIの導入プロジェクトについて。2つ目は、生成AIの導入後に現場の社員に対してどのように浸透させていったのか、そのアプローチ手法についてご紹介します。
成田氏:
日清食品ホールディングスは、グループ企業約60社を束ねる持株会社です。事業の柱として様々な加工食品の製造・販売を手掛けています。そんな当社グループの文化を象徴するものの1つに「カップヌードル・シンドローム」という言葉があります。これは、日本国民の多くに認知いただいている「カップヌードル」という強力なブランドに甘んじて新しい取り組みを躊躇したり、業務の在り方を見直す姿勢を失ってしまったりする状態を示す言葉です。当社の経営陣は、この「カップヌードル・シンドローム」に陥ることを懸念しています。強力なブランド力に頼るのではなく、常にこれまでのやり方を見直して欲しいと、社員に対して力強くメッセージを発信しているのです。この言葉が存在すること自体が、新しいことを取り込み、前進し続けていく力になっていると感じています。
当社グループでは、2019年から「DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」というスローガンを掲げています。これは、当社グループのような非IT企業であってもデジタルを最大限に活用し、自分たちの働き方を破壊してでも変えていくべきだ、というメッセージです。このスローガンのもとに、いくつかのマイルストーンを設定しています。2023年は「ルーチンワーク50%削減」がテーマで、業務自動化やAI活用を提唱しています。こうした流れを受け、我々IT部門が注力すべき領域として、次の5つを定めました。
これらを組織的に推進するために、IT部門である情報システムプラットフォームの体制を整備しています。
本日は、中でも最も特色のある取り組みである「3. 業務部門のデジタル活用支援」についてご紹介します。この推進を担うのは、2年前に設置したデジタル化推進室です。彼らは各現場に入り込み、デジタルを活用して作業の質や効率を向上させることに日々向き合っています。ローコードによるアプリ開発の内製化や、モバイルデバイス活用推進などにも取り組んでいます。
成田氏:
ここからは、本日の本題の1つである生成AI活用の全社的な加速についてお話していきたいと思います。当社グループでは「NISSIN AI-chat powered by GPT-4」と名付けたサービスを2023年の4月下旬にリリースし、現在では約4,800名のホワイトカラーの従業員が日々利用しています。
きっかけとなったのは、2023年の3月末に実施した安藤宏基CEOとの1on1です。私は3月中旬にリリースされたばかりのGPT-4について話をし、「日清食品ホールディングスが今後取り組むべき課題は何ですか?」という問いに対するGPT-4の回答を示したのです。これを見た安藤CEOは驚きと恐れを感じつつも、新しい技術の革新性と、この技術が会社を変える可能性があるということを肌で感じたのだと思います。そのわずか2営業日後に開催されたグループ合同の入社式で、安藤CEOは新入社員に向けてChatGPTを用いて作成したメッセージを紹介しました。
この様子を見て私は、ChatGPTは一体何ができて、何ができなくて、どのような制約があるのかについて、一刻も早く社員が肌感を持って理解できている状態にまでもっていかなければならないと感じました。そして会社に戻り、その日のうちにIT部門の中で希望者を募ってプロジェクトを立ち上げたのです。
プロジェクトチーム組織後は、どのような形で進めていくのが適切か、方針の検討を始めました。その当時においては、当社グループ専用のセキュアな環境を構築するのが一番近道であるという判断をし、2週間ほどで専用環境を構築しました。また、並行して関係部署との調整を進めていきました。法務部やサイバーセキュリティ戦略室、内部監査部やリスクマネジメント室など、いわゆる守りの部門との調整です。その他にも、ロゴやキャラクターを使用するために、デザイナーやマーケティング部門との調整も必要でした。これらを経て、4月25日にNISSIN AI-chatを公開するに至りました。
成田氏:
プロジェクトで最初に行ったのはリスクの整理です。当時、ChatGPTが新しい技術であるがゆえに、様々なリスクを指摘されていましたが、当社ではそうしたリスクを大きく2つに集約して整理しました。1つ目はセキュリティ、2つ目はコンプライアンスです。
セキュリティリスクに対しては、専用の環境を構築し、業務での利用はこの環境に限定するといった対策を取りました。コンプライアンスリスクには、不正確な情報を鵜呑みにしてしまったり、その情報を流用したりすることなどがあります。しかし、考えてみればこれらのリスクはChatGPTに限らず、インターネットで情報収集する際にも当てはまる事項です。我々はインターネット上の情報を鵜呑みにせず、無意識のうちに注意を払っているはずです。
このため、リテラシー向上のためのガイドライン策定や説明会の開催、通報の発信、社内報での記事化などを通して何度も社員に注意喚起をするという方策を取りました。また、システム上でも注意喚起が何度も表示されるような作りにして、啓蒙を繰り返し実施していきました。
成田氏:
ここまでが導入から1ヵ月ほどの間での取り組みです。しかし、今あらためて振り返ると、ここから先が非常に長く険しい道のりでした。この後、現場に入り込んで活用を促進していくことになるのですが、「生成AIを導入はしたけれど、なかなか活用の裾野が広がらない」といった課題を抱えている企業は多いのではないでしょうか。当社グループでも全く同じ課題に直面しました。これに対してどのようなアプローチをしていったのかについては、現場で施策をリードしたデジタル化推進室 室長の山本からご紹介させていただきます。
続いて中編では、デジタル化推進室 室長である山本氏にご講演いただいた、生成AI導入後の社内への推進アプローチに関するお話をレポートします。