マイナスの運用をプラスに変える「運用アセスメント」の重要性とその方法論を徹底解説

IIJ プロフェッショナルサービス第一本部 コンサルティング部 オペレーションデザイン課

課長

西森 裕一

・大規模な物流システムの運用体制の運用統括責任者を始め、運用現場における顧客折衝、組織マネジメントを多数経験
・システム運用現場の経験、知見を活かし、幅広いお客様へ運用コンサルティングや運用サービスの提案を実施

執筆・監修者ページ/掲載記事:1件

システムのレスポンスが悪くて仕事にならない。開発環境のリソースを早急に増強してほしい。IT部門には日々様々な要望が寄せられますが、IT運用が逼迫していると対応が後手になり、ビジネスに支障を来します。課題解決には「運用改革」が不可欠です。その第一歩となるのが「運用アセスメント」です。運用改革に向けたアセスメントは何を重視し、どのように進めるべきか。実効性の高い手法を考察していきます。

目次
  1. 理想先行の運用改革は“絵に描いた餅”に
  2. 運用アセスメントは3つのステップで進めていく
  3. 現状把握はあくまで手段 目的化しないことが大切
  4. 関係者の合意を形成し、明確なKPIをゴールにする
  5. 必要なアクションを具体化し、優先順位を付ける
  6. 15,000社超の運用経験に基づくアセスメントを提供

理想先行の運用改革は“絵に描いた餅”に

オフィスITや従業員の業務管理、企業情報を発信するSNSやECサイトの運営など、現代のビジネスにおいてITの有効活用は必須条件です。医療や農業、物流などITの活用領域も広がりを見せています(図1)。

図1 広がるITの活用領域

図1 広がるITの活用領域

その裏で、切実な課題を抱えている企業も少なくありません。その課題とは、IT運用の煩雑化です。

例えば、個別に構築されたシステムの多くはサイロ化し、運用も属人化しています。その結果、運用コストは高止まりしたまま。慢性的な人材不足の中、必要なスキルセットを持った人材の確保も困難です。既存システムの管理や保守に加え、クラウドやAIなど新たな技術・サービスへの対応を迫られる。予算や人は限られるのに、やるべきことが増え、運用の現場は悲鳴を上げています(図2)。

図2 IT運用の主な課題

図2 IT運用の主な課題
IIJ 「全国情シス実態調査2023」2023年11月より引用

こうした状況を打破するためには「運用改革」が必要です。疲弊しない運用を実現できれば、ビジネスに寄り添ったITの活用が進みます。守るべきものは守り、攻めの姿勢で新たな領域にチャレンジする。守りと攻めの両輪でDXも加速するでしょう。

しかし、課題を抱える企業の背景は千差万別です。「こうしたい」「ああなりたい」と目指す姿を漠然と描くだけでは、運用改革は“絵に描いた餅”になることが少なくありません。

なぜそうなるのか。問題は「実効性の欠如」だとIIJは考えます。実効性を高めれば、運用改革を成功に導くことができます。その第一歩として、IIJは「運用アセスメント」の実施を推奨しています。

運用アセスメントは3つのステップで進めていく

運用アセスメントとは、現状のIT運用を評価・分析して課題の解決策を策定することです。一般的には運用業務の内容やルール、各自の役割などを把握した上で、「誰が、どのような作業を行っているか」「作業プロセスはどのような手順で行われているか」など実務面のスキームを調査。そこから業務の課題を明らかにし、改善策を検討します。

課題から解決策を探るため、「マイナスをゼロにする」という意味では十分な活動と言えますが、運用改革につなげていくためには「ゼロをプラスにする」活動が必要です。具体的には「理想の姿」を可視化・共有して、関係者間でゴールの方向性と解像度を合わせていくのです。

この取り組みは「現状把握」「ゴール設定」「アクション検討」というステップが有効な手法となります。まずスタート地点となる現状を把握した上で、ゴール地点を設定し、スタート地点とゴール地点のギャップからアクションを定めていくのです。これにより、実効性のある運用改革を実現できます(図3)。

図3 運用アセスメントの3つのステップ

図3 運用アセスメントの3つのステップ

現状把握はあくまで手段 目的化しないことが大切

最初のステップである「現状把握」のためには、運用設計ドキュメントや運用工数といった情報を精査します。これらが整理されている場合は、既に現状の運用が定義されていると言えますが、必ずしもその通りに運用が行われているとは限りません。

現状の運用が整理されている場合も、いない場合も、運用担当者へヒアリングを実施したり、運用管理ツールを活用したりして、実際の運用を把握することが欠かせません。

課題を把握せずにゴール設定を行うと、本来目指したいゴールから外れてしまう可能性があります。課題を把握した上でスタート地点を定めることで、ゴール地点を目指すための、より適切なアクションを導き出せるようになります。

ただし、すべての課題を網羅的に把握する必要はありません。運用担当者一人ひとりにヒアリングすると、様々な課題が出てきますが、実は根っこの部分は同じということもあります。課題の把握を深掘りしすぎると、それが目的化し、なかなか先に進めなくなります。この現状把握はスタート地点を定めるための手段。より力を入れるべきは、次のステップの「ゴール設定」です。

関係者の合意を形成し、明確なKPIをゴールにする

ゴール設定の目的は「理想の姿」を定義し、運用改革を行う関係者間でそれを共有することです。ここで大事なのは、理想の姿をより具体化することです。運用アセスメントにおける最重要ポイントと言えるでしょう。

理想の姿というのは十人十色です。「運用費用を削減したい」「運用品質を向上したい」といった抽象的な目標では、個々によって“温度差”があるため、いつまで経っても終わりがありません。

例えば「運用費用を削減したい」というゴール設定の場合、1万円の削減で達成できたという人もいれば、100万円削減しても達成できていないという人もいます。「何をもってゴールとするか」を誰が見ても納得できる明確なKPIに定めることが大事なのです。運用費用の例で言えば、マネジメント層を含む関係者間で合意を形成し「年間コストをXXX万円に抑える」など具体的なKPIを設定するといいでしょう。

そのKPIに根拠があると、ゴールの達成に向けた大きな推進力になります。政府の定める指針や業界標準に沿った内容を定めることで、KPIの説得力が増すからです。誰もが認める根拠が見つからない場合は、関係者が納得できる現実的な数字であるべきです。

必要なアクションを具体化し、優先順位を付ける

ゴールが決まったら、それを達成するために必要なアクションを明確にします。そのためには「現在の状態」と「ゴールを達成した状態」を比較し、課題を抽出することが不可欠です。その課題を解消する手立てが具体的なアクションとなります。「現状把握」でスタート地点を定めているからこそ、ゴールを達成するために必要なアクションをより具体的にイメージできるようになるのです。

次に、検討したアクションの実行計画を立案します。人的リソース、費用、アクションの難易度、それに対して得られる効果など、多角的な観点から総合的にアクションを評価して優先順位を付けていきます。

例えば、費用がかかったり難易度が高かったりしても、得られる効果が大きければ、優先順位を上げる。あるいはできるところから手を付け、小さな成功を積み上げて、大きな課題解決に着手する。どちらのアプローチを採るかは、企業が抱える課題や目指す理想の姿によって変わってきます。

この優先順位付けも関係者間で合意を形成し、納得感を高めることが重要です。特に予算の執行や体制の見直しなどが必要になる場合、マネジメント層の理解が欠かせません。具体的なアクションとその優先順位付けを行うことにより、運用改革を現実的かつ建設的に進めていけます。

15,000社超の運用経験に基づくアセスメントを提供

IIJは自社クラウドサービスや多様なネットワークサービス、セキュリティサービスに加えて統合運用管理サービス「UOM」を提供し、グループ全体で15,000社超のシステムを支えています。サービスを利用するお客様の業種・業態や企業規模も様々です。多様なお客様の運用現場に精通し、課題解決のためのナレッジと方法論も豊富に有しています。

この強みを活かし、IIJは「運用コンサルティング」を展開し、「安定運用のための運用体制の考案」や「運用改善及び運用コストの最適化」など、IT運用における様々な課題解決を支援しています。その一環として、「運用アセスメント」を提供しています。

「理想の姿」を描くだけでなく、お客様に寄り添って現状とのギャップを埋め、実効性のある現実的な計画を立案。アクションの優先順位付け、組織内の合意形成などもサポートします。もちろん、IIJの運用サービスを用いた運用改革の提案も可能です。

既に様々な背景を持つ多くのお客様の運用アセスメントを実施しています。

例えば、セキュリティインシデントの再発防止を求めるお客様に対し、IIJは運用アセスメントの結果をもとに、セキュリティ運用の見直しを提案。運用現場において実効性のある「セキュリティ運用ガイドライン」の策定を支援しました。

IT運用の業務負荷が課題となっていたお客様に対しては、「運用アウトソースを見据えた運用アセスメント」を実施。課題を整理した上で運用アウトソースが可能になり、運用業務の負荷軽減だけでなく、同時に運用品質の向上も実現しました。

既存システムの安定稼働に加え、DXの推進も求められ、運用部門の負担はますます高まっています。こうしたことから、昨今はIT運用のアウトソースを考える企業も増えつつあります。IT運用の選択肢は広がっていますが、単なる丸投げでは運用担当者の負担は減っても、課題は解消されず、抜本的改革にはなりません。

現状の課題を整理し、各社それぞれが考えるゴールを実現する上で、運用アセスメントの実施は不可欠です。DXの推進を見据えた運用改革の1つの手段として、IIJの運用アセスメントをぜひご検討ください。