DXを阻害するレガシーシステムから脱却する最適解

多くの企業がデジタル・トランスフォーメーション(DX)に動き出す中、既存システムがDX推進の足枷となるケースも急増しています。従来のシステムを見直し、システムの全体最適化を図るためには何をするべきか。一般的なビックバン型アプローチとIIJのアプローチをご紹介します。

目次
  1. 国内企業の半数以上が、レガシーシステムにDX推進の足かせを実感
  2. レガシーシステムから脱却することの難しさと課題
  3. DX推進のためのシステム全体最適化と課題
  4. IIJのシステム最適化に対する取り組み

国内企業の半数以上が、レガシーシステムにDX推進の足かせを実感

これまで多くの企業は、事業に合わせて情報システムを導入し、ビジネスを推進してきました。しかし、ビジネスが複雑化する昨今では、事業に合わせた情報システムの導入だけでは、他社との差別化は進まず、事業単体での競争優位性を上げることが難しくなってきています。

こうした背景から、事業横断のビジネス推進や質の高いマーケティングの実現、顧客のリピート率向上、新規顧客開拓、クロスセルの推進、ビジネスアジリティ向上などを目的に、情報システムのあり方を見直し、ビジネス競争優位性の向上や新しいビジネスを始めるDXに動き出す企業が増えています。IPAのアンケート調査(※1)によれば、国内の40%以上の企業がDXの取り組みを開始し、従業員1,000名以上の企業では、約80%の企業がDXに向けて動き出しています。

DXの実現はスピードが重要視されます。そのため、DX推進には、絶え間ないビジネスの変化や経営課題への対応に合わせて、極力速やかに、コストを抑えつつシステムを対応させていくことが求められます。しかし、過去のビジネス成長を支えるために改修を重ね複雑化したレガシーでモノリシックな既存システムは、開発にかかる影響や改修時間も大きく、DXの推進スピードを阻害する足枷になっているのが現状です。

実際に、JUASのアンケート調査(※2)によれば、90%の企業がレガシーなシステムを抱えており、そのうち80%近くの企業が「社内ビジネスのデジタル化の足枷になっている」と回答しています。更に、JUAS「企業IT動向調査」(※3)によると、国内企業のIT予算の80%がラン・ザ・ビジネス(維持運営)に割り当てられていす。また、国内企業の3社に1社は、社内のラン・ザ・ビジネスがIT予算の90%以上を占めており、新しい投資ができない状態を示しています。

これらの調査結果から、レガシーなシステムがDXを阻害する技術的負債であり、ビジネスの成長にはレガシーシステムからの脱却が不可欠であるという一般的な認識が読み取れます。

(出典)
(※1)IPA「デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査」:https://www.ipa.go.jp/files/000082054.pdf
(※2)一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会/株式会社野村総合研究所「デジタル化の取り組みに関する調査」:https://juas.or.jp/cms/media/2020/05/Digital20_ppt.pdf
(※3)一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査2020(2019年度調査)」:https://juas.or.jp/cms/media/2020/05/it20_ppt.pdf


レガシーシステムから脱却することの難しさと課題

レガシーシステムから脱却するには、ビジネス視点でデータや業務を制約なく相互利用できるようにシステム全体を最適化していく必要があります。

しかし、システムを全体最適化するには、様々な課題や難しさがあります。例えば、数十、数百の業務機能を持つ既存システムや基幹システムを一括で刷新するには、現システムと周辺システムの業務を可視化し、現状の課題と業務要件を洗い出し、次期システムの要件を定義する準備期間と、要件を満たす新しいアーキテクチャやシームレスなシステム間連携を設計し具現化する開発期間、現システムのデータを業務影響なく移行し、現システムから新システムに業務を移していく運用移行期間が必要です。計画から切り替えまで、年単位の長い対応期間と大きなコストが発生します。

スケジュールやコスト以外の課題では、要件管理、ベンダ管理、プロジェクト推進など長期に渡って情報システム部門のケーパビリティや高いリソース集中が必要になる点や、TOBEモデル策定における次期システムの現実解を導く技術的課題も挙げられます。

これらの課題から、経営層や情報システム部門が、システム全体最適化に踏み切れない傾向があります。

DX推進のためのシステム全体最適化と課題

システム全体最適化の進め方は様々です。その1つに、ERPパッケージの導入で一般的に用いられる、業務からシステムまでを全面的に見直すビッグバン型のアプローチがあります。

ビックバン型の全体最適化では、現業務から業務プロセスの洗い出しを行い、定義化した上、重複をなくし最適な業務プロセスにモデリングしていきます。モデル化された業務プロセスに基づきサービスを定義して、システム構築していく進め方です。本アプローチは、企業のビジネスを改革するため、業務プロセスだけではなく、組織やビジネスルールを見直し、業務プロセスの視点で業務フロー、職務、権限、管理組織、情報システムなどを含めて組み直しを行うため、ビジネス改善の効果は非常に大きいものになります。

しかし、この方法の場合、一般的に対応が長期化するとともに、対応を推進する情報システム部門のリソースを逼迫させる要因ともなり、現在のビジネスシーンで求められるアジリティを考えると、採択が難しい側面があります。

一方で、現実的なコスト・スケジュールに収めるために、パッケージシステムに業務を極力合わせていくアプローチを求められるシーンも多くあります。しかし、現場の業務をドラスティックに変革していくことは現場からの反発を招くことが多く、結果的にパッケージシステムに対して多くのカスタマイズが発生し、システム見直しの本来の目的となる業務プロセスの再定義が達成できないだけでなく、個別カスタマイズが多くなることによって複雑なシステムとなり、課題の根本的な解決が引き出せない構成になってしまうことがあります。

また、DXにとって重視されるデータ分析の観点でも、多くのパッケージシステムは、データ分析を行うことを前提にデータモデルが定義されていません。また、データ活用の事前処理に時間を要するケースや、データベースの負荷による業務影響を回避するためリアルタイムでのデータ活用が実現できないケースも散見されます。

IIJのシステム最適化に対する取り組み

IIJでは、システムの全体最適のご相談をいただいた場合は、まず、既存システムのアセスメントを実施するご提案をしています。お客様が感じる課題や要望をヒアリングしたのち、前述の観点で既存システム全体のアセスメントを実施します。

具体的には、既存システムの調査や課題の洗い出しを闇雲に行うのではなく、利用者視点の「データ」の観点、運用者視点の「オペレーション」の観点、開発者視点の「アーキテクチャ」の観点から整理し、検討の偏りや漏れをなくし、全体のあるべき姿を俯瞰的に定義します。

  1. データ:システムの利用で蓄積されるデータを横断的に活用する観点からの整理。
  2. オペレーション:運用だけでなく、業務を行う利用視点全般からの整理。
  3. アーキテクチャ:性能や開発リードタイム、開発の課題からの整理。

これらのアプローチにより、現場業務のオペレーションをドラスティックに変革することなく課題点のみを解消し、業務の使いやすさを維持しつつ、柔軟に改善できるあるべき姿を定義します。事業単体への部分最適と事業全体での全体最適を組み合わせて整理することで、高い業務効率やスムーズな新システムへのシフトを実現しつつ、事業全体での相互効果を引き出すシステム構成を策定します。

なお、システム構成の策定は「サービス化」と「データ統合」の両面からアーキテクチャの定義と実現方式の設計を行います。ビジネススピードに合う高速開発とシステムの柔軟性を「サービス化」により実現し、業務影響なく事業横断の自由なデータを実現し、ビジネスの競争力を強化する目的に「データ統合」を取り入れ、全体最適と個別最適の両面でのあるべき姿を目指します。また、既存システムをまるごと置き換えるのではなく、定義したあるべき姿に向け、共通データ部分や共通業務部分に着眼し、効果や改善の期待値の高い部分からの段階的な実施計画をご提示します。

ビジネス改善効果が非常に高い反面、コスト・リスクも大きくなる傾向があるビッグバン型の一括移行とは異なり、効果が出やすい部分から、段階的な最適化を繰り返し行っていくことで、早く効果を体感いただきながら、確実なシステム最適化を徐々に適用していき、最終的にシステム全体の最適化を実施します。それにより、開発サイクルのリードタイムを抑え、局所的に実施を進めていくことで、優先的な対応が発生した際にも柔軟で迅速に対応できる体制と仕組みづくりを実現しています。

レガシーシステムからの脱却にはビックバン的なシステム刷新以外の方法もありますので、レガシーシステムの足枷に不満を持ちつつ、システムの最適化に踏み切れていない状況があれば、弊社のアセスメントから始めてみませんか。