くらしを支える専門職ネットワーク

現代社会は、医療・介護・福祉、そして日々のくらしにおいて、多くの課題に直面している。本稿では「地域包括ケア」にフォーカスし、IIJ の「電子@連絡帳」サービスや、ICT(Information and Communication Technology)が担うべき役割について考える。

目次
  1. 日本を取り巻く医療・介護・福祉
  2. 地域包括ケアとは
  3. まず、ひと、ありき
  4. ひとがつながり、まちを動かす
  5. 地域行政に向けたクラウドサービス
  6. 日常から非日常。全世代型の対応へ
  7. 医療介護業界から民間とのコラボレーションへ

日本を取り巻く医療・介護・福祉

日本はこの十年、大きな変化を経験しました。東日本大震災を経て、過去の常識が通用しない状況を体験し、その後も多くの災害に見舞われています。他方、日本は課題先進国と言われ、超高齢社会や少子化の流れをどのように乗り越えていくのか、世界から注目されています。

こうしたなか、IIJでは「地域包括ケアシステム」への対応を目的に、2017年から「IIJ電子@連絡帳サービス」をスタート。多くの行政・団体を訪問して意見を集約し、現在、60以上の行政・地域にクラウドサービスを提供しています。

地域包括ケアとは

厚生労働省が掲げる「地域包括ケア」という言葉をご存じでしょうか? 一般の方にはあまり馴染みがないかもしれません。しかし、これからの日本の医療福祉の運営を考えるうえで大変重要な概念です。

「地域包括ケア」に対してはさまざまな考え方がありますが、病院を中心とした、全国一律の医療ではない、未来に通じる新しい地域医療・福祉の仕組みを実現すること、と我々は捉えています。

高齢者の医療・介護は複雑で、複数の疾病を抱え、「病気を治す」というよりも、「病気とともにくらす」ことや、健康を維持すること(介護予防)に主眼が置かれるようになり、医師だけでなく、介護・福祉など多くの専門分野が連携していくことが求められています。これは「医療=病気を治すこと」というこれまでの考え方とは大きく異なります。

高齢者の方の意識も次第に変化し、人生の最終段階で在宅療養を積極的に選択するようになり、国もこれを推進することで、住み慣れた自宅で最期をむかえるケースが増えています。この場合、自宅や施設を中心とした在宅療養支援の体制が必要になります。在宅医療では、所属の異なる専門職がそれぞれ一人の患者を訪問して対応を行ないます。その際、事業組織が異なる人同士のコミュニケーションは苦労も多く、医療情報の取り扱いに関しては国のガイドラインもあり、電子メールのような一般的なツールによる情報共有は制限されています。そうした背景から、電話、FAX、対面、紙でのやり取りが中心になっている地域もまだたくさんあります。

まず、ひと、ありき

ICTツールは、まさにこのような複雑な状況を効率化し、利便性を高めるうえで有効です。しかしICTという道具よりも、地域が共通の課題を認識し、専門職同士のつながりを構築することがより大切です。始めは小さな規模でも、地域課題が共有され、目的意識が同じ方向に向かうことで、専門職のネットワークが形成され、さらにそれらを強固にするソーシャルネットワークが有効に機能すると考えています。

超高齢社会における在宅医療という大局的なテーマでは異論も少ないかもしれませんが、認知症予防、母子支援、医療的ケア児へのフォローアップ、災害対策など、地域課題は千差万別です。また、多くの専門職が一つにまとまり、力を発揮するには明確な目的意識がとても大事になってきます。目的意識が共有できれば、ICTツールに不慣れな専門職もチャレンジするモチベーションを持つことができ、小さなチャレンジが一つでも成功すれば、その体験が他の専門職を巻き込んでいきます。

ひとがつながり、まちを動かす

地域資源でもっとも大切なものの一つが「人」です。地域の医療・福祉を支えているのは、専門職一人ひとりです。そして、地域の専門職の方々が安心・安全に連携できるコミュニケーションツールを得ることで、医療・福祉に関わる運営は大きく向上します。

電子@連絡帳サービスを導入して、在宅医療の連携だけでなく、専門職同士の情報共有ツールとして積極利用している地域もあります。医療・介護・福祉の多様な職種がオンラインでつながり、運営できれば、地域にとって大きなメリットになります。自治体や医師会、あるいは、それらを中心とした地域の協議会がICT基盤を運営する理由がここにあります。医療と介護の連携を考える時、各々の専門性の隔たりは大きく、リテラシーや利害関係にも差があります。これらをまとめていくには、異なる職能団体を公的な視点から統括する地域行政の参画が欠かせないのです。

地域行政に向けたクラウドサービス

このような連携システムを地域行政にクラウド型の共通サービスとして提供することには、二つの意義があります。まず、地域の医療資源である専門職や施設、職能団体を一つに束ねて運営することで、合理的な資源管理や告知・広報などがスムーズに行なえるようになります。

次に、隣接した地域行政がまとまって広域連携することで、一つの市町村ではカバーしきれない医療・介護資源を共用できるようになります。広域連携を実現することで、効率的な運営が可能になるだけでなく、甚大な災害にみまわれた際にも、サービスを継続できる高い可用性を確保できます。これはクラウドサービスならではの特徴と言えるでしょう。

日常から非日常。全世代型の対応へ

IIJでは、電子@連絡帳サービスを導入した各地域の行政イベント、関連会議、在宅医療・介護連携推進協議会などに積極的に参画しています。推進している方々の声を直接受け取ることで、ICTの役割を明確にし、必要に応じた要望をタイムリーにサービスに組み入れるためです。

専門職ネットワークが活発に機能するにつれ、活用を広げていきたいと考える行政が増えています。そして、災害時における要援護者への対応や、独居高齢者を中心とした救急連携対応など、地域課題に即した活用へ発展させていきたいという要望が生まれています。さらに将来的には、児童虐待対策支援のような教育・医療双方の専門職の連携が求められる活用にも期待が寄せられています。

災害時や救急対応時の連携は、通常とは異なる専門職の連携を想定しています。平時に使っているツールが緊急時にも対応できることで、万が一のときにもスムーズな活用が可能になります。こうしたシステムは、単に在宅高齢者だけのものではなく、地域のくらし全体を支えるネットワークになっていく、と我々は確信しています。

医療介護業界から民間とのコラボレーションへ

ICTに求められる役割は、単一機能の提供ではなく、地域の人を有機的に結びつけ、専門職の働きがいを最大化できる環境を提供することで、新たな課題発見やそれに対応していく連携の強さをつくりあげていくことだと考えています。

我々の取り組みはオープンに共有されるべきだという思いから、昨年「全国IIJ電子@連絡帳推進会議(通称「地域サミット」)」を開催しました。地域サミットには40を超える行政、医療・福祉の関係者が集まり、その活動とノウハウの共有が図られた結果、行政や専門職の垣根を越えたつながりを築くことができました。ある地域の課題は他の地域の課題でもあるのです。

医療・介護業界に限らず、民間とも連携していくことで、いわゆる「保険外」という枠組みも含む広いネットワーク形成を目指しています。例えば、MaaSとの連携やIoTの見守りセンサ事業とのコラボレーションは、そういった視野に立ったものです。有益な民間サービスを単一的なシーズアプローチにせず、地域で求められるものにつなげていくことこそ、健康で幸せなくらしを実現していくうえでICTが果たすべき役割だと考えています。皆さまの地域や事業と連携することで、持続性のある地域プラットフォームをつくっていきましょう。

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※IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.156」(2020年2月発行)より転載」