2023年12月21日に開催さ…
ITの活用が企業成長の鍵を握る現代において、情報システム部門にはリーダーシップを発揮し、社内改革を主導することが求められています。特にDX推進の号令のもと、IT担当者が様々な関係者と共にプロジェクトに取り組む機会が増えてきました。
しかし、実際のプロジェクト現場では、「関係者の抵抗」や「部署間の対立」といったコミュニケーションの壁に直面し、思うように進まないケースも少なくありません。
こうした課題を解決するためのヒントを探るべく、2024年9月12日に「情シスのための効果的コミュニケーションの極意 ~部署間の抵抗や対立を乗り越えプロジェクトを成功に導く方法~」と題したIIJ Motivate Seminarを開催しました。今回は、著書『対立・抵抗を解消し合意に導く 改革リーダーのコミュニケーション術』で知られる水田 哲郎氏をお迎えし、情シス担当者が直面する課題とその解決策について講演いただきました。
本記事では当セミナーの模様をお届けします。
なお、本セミナーは2024年11月30日(土)までの期間限定でアーカイブ映像を公開しています。実際の発表や質疑応答の模様は、ぜひ映像でもお楽しみください。
株式会社 日立ソリューションズ
経営戦略統括本部
理事 エグゼクティブITストラテジスト
水田 哲郎 氏
1990年、日立製作所に入社。以降、同社、日立コンサルティング、日立ソリューションズでシステム企画や要件定義の方法論の開発・普及、顧客企業のコンサルティング業務に従事。近年は研修や講演の講師も務める。著書は『改革リーダーのコミュニケーション術』、『演習で身につく要件定義の実践テクニック』など多数。
水田氏:
私はこれまで35年間、ITベンダーの立場で多様な企業のお客様に対し、システム導入・推進を支援してきました。関わったプロジェクトは70件以上にのぼります。また、プロジェクト業務と並行して、企業のIT部門やITベンダーの皆さまに向け、企画・提案・要件定義のスキルやエンジニア向けのコミュニケーションスキルに関する研修を実施してきました。
今回のセミナーでは、これまでの経験を通じて培ったコミュニケーションにおいて重要な3つのスキルについて、実践例を交えてお伝えしたいと思います。
これらのスキルは、プロジェクト推進において障壁となる「関係者の抵抗」や「部署間の対立」を解消し、プロジェクトを円滑に進めるための基礎となります。
水田氏:
まずは、相手の言いたいことを正しく聞き出すための「受け取るスキル」について解説します。相手から情報を引き出す際には、一般的にヒアリングを行うことが多いかと思います。このヒアリングを効果的に行うには、「質問のスキル」と「聞き方のスキル」の2つが重要です。
はじめに、「質問のスキル」について紹介します。効率よく情報を収集するための実践的な質問法として、次の5つがあります。
このうち、まずは「Open-Close質問」について解説します。
例えば、経営層や業務部門のメンバーから現状の課題やシステム化の要望を集める場面を想像してみてください。効果的な方法として、まず「Open質問」を使って相手の意見や情報を引き出し、その後に「Close質問」を使って自分の理解が正しいかを確認する、という手順を取ると良いでしょう。
注意すべき点は、ヒアリングの際に自分なりの仮説を立てたとしても、その仮説が正しいとは限らないことです。仮説が誤っていると、質問内容が的外れとなり、結果として時間がかかるだけでなく、相手の信頼を損ねる可能性もあります。
そのため、確度の高い仮説が立てられない場合は、Open質問を多く使って幅広く情報を収集し、その後、集めた情報に対してClose質問で理解を確認する、という手法が効果的です。状況に応じて適切な質問スタイルを使い分けることで、より効率的に必要な情報を得られるようになるでしょう。
次に、「深掘り質問」について解説します。
相手に「あなたが考える問題は何ですか?」と尋ねても、全員が理路整然と答えられるとは限りません。例えば、「技術力や納期意識の低い調達先を選んでしまうことが問題だ」と答えたとしても、実際にはその背後に、さらに深い問題意識や背景が存在する場合があります。こうしたケースでは、発言の表面だけを捉えず、相手の発言以上に何か考えがあるのではないかと疑い、丁寧に掘り下げていくことが重要です。
深掘り質問のポイントは、一つの発言の背景や真意を掘り下げて質問を繰り返し、相手の頭の中にある階層化された情報を「根掘り葉掘り引き出す」イメージを持つことです。これによって、相手が抱える問題の本質にたどり着くことができます。
3つ目に紹介するのは「反復質問」です。
質問には大きく分けて2種類あります。「答えが1つしかない質問」(例:お名前は何ですか?)と、「複数の答えがあり得る質問」(例:現状の業務上の課題は何ですか?)です。皆さんが直面する「業務の問題点」や「改善要望」といった質問は、後者にあたります。一度の質問ではすべての回答を引き出しにくいのが特徴です。
そこで効果的なのが反復質問です。反復質問は、相手の一つの回答に対して「それ以外に何か問題として考えられることはありますか?」と相手がギブアップするまで繰り返し質問を重ねる手法です。
反復質問は、シンプルなようで意外と難しいと感じる方が多いです。その理由は、1つ目の問題点を聞いた瞬間に、すぐにその原因や解決策を考え始めてしまうことにあります。そのため、他にも問題があるのではないか?と考え直すのが難しくなり、結果として、相手が考えるすべての課題を引き出せないまま、分析や解決に移ってしまうことが多いのです。
こうした状態を避けるために、反復質問を意図的に使うことを心がけましょう。相手が十分に話し終えるまで焦らず問い続ける姿勢が、相手の潜在的な問題意識をすべて引き出し、より効果的な解決策を見出す手助けとなります。ぜひ、次のヒアリングの機会で、意識して実践してみてください。
水田氏:
ここまで、情報を引き出すための「質問のスキル」について説明しましたが、もう一つ重要な要素として「聞き方のスキル」があります。代表的な手法として「アクティブリスニング」が挙げられます。アクティブリスニングとは、「私はあなたの話に関心を持っています」という姿勢を相手に伝えることを目的とした聞き方のスキルです。これにより、相手は安心感を持ち、自主的に意見や考えを話しやすくなります。
具体的な方法としては、「前傾姿勢で相手の話を聞く」「相手の話をメモにとって記録する」など、6つの方法があります。「傾聴」と表現されることもありますが、単に一生懸命に話を聞くだけでなく、その姿勢を相手に伝えることが重要です。
反対に、相手の話す意欲を低下させてしまう「ネガティブリスニング」にも注意が必要です。特に気をつけるべきなのが「無表情で聞くこと」です。エンジニアの方の中には、あまり感情を表に出さずに話を聞く方や、無表情で反応を見せないままでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。このような無表情や無反応は、話し手からすると「フラットな態度」ではなく、ネガティブな印象を与える可能性が高くなります。
これらは簡単なようで、意外と意識しなければ実践しづらいスキルです。特に相手が多くの情報を持っている場合や重要なヒアリングの場では、積極的にこれらの聞き方を取り入れて、相手が気持ちよく話せる環境を作り出しましょう。
水田氏:
ここからは、相手から理解や納得を得るための「伝えるスキル」についてご紹介していきます。
プロジェクトを進める際には、施策そのものの内容説明だけでなく、「施策に取り組むメリット」や「施策の実現性」を相手に伝えることで、理解や納得を促すことができます。特に「施策に取り組むメリット」については、組織全体のメリットだけでなく、「説明相手個人にとってのメリット」も忘れてはいけません。
相手の興味を引き、理解や共感を得るためには、以下の4つの要素を盛り込むと効果的です。
また、相手にわかりやすく伝えるためには、資料作成のプロセスも重要です。資料作成時には、いきなりPowerPointで作成するのではなく、全体の章立てや骨子を先に作ることをおすすめします。また、文章は簡潔にわかりやすく書くことを意識し、視覚的に理解しやすいシンプルでメッセージ性の強い資料作成を心がけます。
こうして作成した資料は、必ず時間を置いてから見直すようにしてください。作成直後に確認すると、内容の漏れや誤りに気づきにくく、誤字や脱字といった単純なミスさえ見落としがちです。時間をおいて冷静な視点で見直すことで、資料の精度をさらに高めることができます。
セミナーでは、この他に「相手を飽きさせないプレゼンの秘訣」についても解説しています。詳細はぜひアーカイブ映像をご覧ください。
続くレポート後編では、関係者間で意見が食い違った際に、双方が納得する形で意見をすり合わせていく「合意に導くスキル」について解説します。
(次ページ)食い違う意見を擦り合わせる ~合意に導くスキルとは?~