・金融業界向けのインフラ設計・構築エンジニアを経て、インフラ構築プロジェクトのPMを担当
・製造業向けIoTソリューション開発における技術リーダーや、建設業向けデジタルコンストラクションの技術コンサルティングなど、多岐にわたる業界での技術支援に従事
・現在はAzure OpenAIの導入支援を中心に、生成AI領域におけるコンサルティングに注力
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2022年11月に米国のOpenAI社がリリースしたAIチャットボット「ChatGPT」。まるで人間のようにチャット上で会話ができるAIは、世界中に衝撃を与えました。それ以降、GPT-4をはじめとする高性能モデルの登場や、画像生成、動画生成など、生成AIの能力は急速に進化し、そのバリエーションも多様化の一途をたどっています。ビジネスでの活用もいまや大きなトレンドとなり、「使うか、使わないか」ではなく、「どう使うか」を考えるフェーズに移行しているのです。しかし、技術の進化や選択肢の複雑化により、なかなか一歩を踏み出せない。導入したものの、成果の創出につながらない。そんな企業も少なくありません。生成AIの導入・活用を阻む課題を紐解き、その解決策を徹底解説します。
生成AIへの期待が日増しに高まっています。その先駆的サービスとも言える「ChatGPT」は、2024年時点で週間アクティブユーザ数は約2億人。Fortune 500の企業のうち92%が利用していると言われています。現在はBing、Microsoft 365 Copilotなど様々な生成AIサービスが提供され、利用のすそ野が広がっています。
米国に比べ、デジタルテクノロジーの利活用が遅れていると言われる日本でも、企業の生成AIの注目度は高まっています。2024年2月に行ったIIJの調査によると、業務に積極的に取り入れている企業(9%)と試験的に利用している企業(46%)を含め、何らかの形で生成AIを利用している企業は既に半数以上にのぼっています。生成AIはデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で不可欠のツールとなりつつあります。
図1:生成AIの利用状況
ビジネスに大きなインパクトをもたらすユースケースも増えています。例えばECサイトやオークションサイトでは、出品の“映える”写真の取り方や“刺さる”メッセージなどを生成AIがアドバイスするサービスを提供しています。ある菓子メーカーはパッケージデザインのプロトタイプの作成に生成AIを活用し、作業を大幅に省力化しました。広告業界でもデザインの企画・制作のほか、マーケティング施策のアイデア出しなどに生成AIが活用されています。ある介護事業者は日々の介護記録をもとに作成する月次の報告書の作成に生成AIを活用。プロンプト(生成AIへの指示や質問)を入力すれば瞬時に報告書ができ上がるため、スタッフの作業負担を劇的に軽減し、人による内容のバラつきもなくなったことから報告書の質も向上しました。
活用次第でビジネスの強力な“武器”になる生成AIは、企業の競争優位性を左右する可能性を秘めています。
一方、生成AIの利用が広がる中で、いくつかの課題が浮き彫りになってきました。最たる課題は大きく3つあります。1つ目は「セキュリティへの不安」です。例えば、社内の秘匿情報や個人情報は生成AIの検索範囲に含めないようにしたり、入力・出力情報に重要情報が含まれていないかチェックを徹底したりする必要があります。そうしないと本来開示すべきではない情報が出力され、思わぬ情報漏えいに発展してしまう恐れがあります。巧妙なプロンプトを投げかけて、本来開示されない情報を引き出したり、悪意のあるプロンプトで回答に悪影響を与えたりする「プロンプトインジェクション」も大きなリスクです。
2つ目が「推進者の不足」。生成AIは新しい技術であるため、そのスキルや知見を持つ人材が不足しています。生成AIを活用してDXを推進したくても「何から手を付けていいかわからない」という企業もあります。
3つ目が「利用者の意識障壁」です。新しいものには拒絶反応が付きものです。先進技術による変革を受け入れたくないという現場レベルの抵抗もよくある課題です。生成AIで業務が省力化・自動化されると、自分の仕事が奪われてしまうのではないかという警戒感もあるようです。
例えば、セキュリティの課題は拒否トピックを設定し、意図しない情報を引き出そうとしている場合は出力をブロックする。ID管理やアクセス制御を強化し、権限のないユーザのデータアクセスを制限する。こうした対策が有効な手立てとなりますが、3つの課題をそれぞれ個別の課題と捉えるのは誤りです。3つの課題は根っこの部分でつながっています。生成AIの知見を持つDX人材が中心となって変革を進めていけば、セキュリティや現場の意識の問題も解決していけるでしょう。
IIJはこれまで外部コンサルタントの立場で、企業の生成AIやLLM(大規模言語モデル)などの最新テクノロジーの導入支援を数多く手掛けてきました。そこで得た経験や知見から、「社員自身が自社のDXを進めていかないと本当のDXは実現できない」と考えています。DXの目的は単に先進テクノロジーを導入するだけではなく、そのテクノロジーを使って事業や業務を今までにない形へ変革することだからです。例えば、生成AI/LLMを利用する場合、テクノロジー的に正しい選択をしたとしても、それが各企業の文化背景なども考慮した最適な選択となっているかどうかは、自社のビジネスや文化・風土をよく知る社員でないと判断できません。
自社の社員が主体的にDXに取り組むためには、Off-JTとOJTを効果的に組み合わせたトレーニングを実施し、成功体験を獲得することが重要です。成功体験はいきなり大きな絵は描かず、まず小さな成功を積み上げていくことがポイントです。その方が成功の確率は高くなり、成果も実感しやすいからです。
具体的には、座学やワークショップ、ハンズオンを組み合わせた研修、有識者による伴走型での支援、実際の業務シナリオに基づくPoCの実行とその後の評価というプロセスが有効です。早期に成功体験をつくり、その事例を積極的に広報していくことで、テクノロジーによる変革を推し進める雰囲気が社内に醸成されていきます。
その取り組みは多岐にわたります。まず生成AIに関するスキルや知見の習得を図り、それを拡張利用できる人材の育成が欠かせません。生成AIの拡張利用にはLLMモデルの選定、プロンプトエンジニアリング、RAGやAIエージェントの活用、データ・プロセス連携、検索機能強化などの知見が必要です。
図2:生成AIを拡張利用できる人材に求められる技術領域
さらに現場での業務利用を推進するための組織体制の整備、社員が変革に向けて積極的に取り組むマインドチェンジも求められます。この分野の技術変革スピードは非常に速く、日進月歩で進化を続けています。情報感度を研ぎ澄まし、常に新しい技術やトレンドのキャッチアップに努めることも重要です。人材育成するために信頼できるパートナーのサポートが欠かせません。
生成AIの利活用に課題を抱える企業を支援するため、IIJは、生成AIを拡張利用できる人材を創出するプログラムを開発しました。先行してリリースしている「IIJ DX人材アセスメントソリューション」やDXコンサルティングで得られた実績・知見を活かし、プロフェッショナルチームの育成を伴走支援します。
最大の強みは生成AIのプロフェッショナルに欠かせない3つのポイントを網羅していること。目的と最適な実現手段を選定する「企画」、スピード・コスト・セキュリティを兼ね備えた「設計・開発」、現場の利用促進と成果の創出を図る「運用」の各ステップに求められるスキルや知見の習得をサポートします。同時に内製化に向けたスキルトランスファーも進めます。内製開発が可能になることで、開発スピードが向上しコストも最適化できます。現場への展開・運用に向けて、社員教育や利用ルール、ガイダンスの策定も支援します。
図3:生成AIを拡張利用できる人材創出3つのポイント
ニュートラルな立場で最適な生成AI/LLMを提案できるのも強みです。特定のベンダーやサービスありきではなく、性能やコストとのバランスを考え、お客様の課題解決や目指す姿に最適な生成AI/LLMを提案します。
「企画」では、IIJがDXコンサルティングを行う中で培った、デジタルで業務を変革するためのフレームワークを、生成AI向けにアレンジして利用しています。また、「企画」から開発、運用までIIJ社内でITコンサルタントを育成してきたノウハウを活用し、伴走型でフルサポートすることで経験によって培われる暗黙知の共有を推進します。こうした支援によって、お客様の社員をDX人材に育成し、安全・安心かつビジネス価値を生む生成AIの活用を実現するのが特長です。
IIJはインターネットの黎明期からその発展に貢献してきた技術と知見を活かし、インターネットやデジタルの更なる価値を引き出します。特に生成AI/LLMはビジネスに与える影響が大きいことに着目し、IIJ社内でも技術的な検証とともに人材の育成にも力を入れてきました。その知見やノウハウは大きな強みです。これから生成AI/LLMの利活用に取り組むお客様、既に取り組み始めているが成果が思うように上がらないお客様も、IIJが経験と実績をもとに確かな成果へと導きます。