第3回 IIJアフターGIGAスクールセミナー~アフターGIGAスクールのネットワークインフラを考える~

IIJでは、「アフターGIGAスクール」をテーマとしたWebセミナーを複数回にわたり開催予定です。2023年6月に開催した第3回では、文部科学省 大臣官房審議官(初等中等教育局担当) 安彦 広斉 様、鎌倉市教育長 岩岡 寛人 様、柏市教育委員会教育専門アドバイザー 西田 光昭 様をお迎えし、「これからの学び・学びの将来について~GIGAスクール環境をどのように活用していくか~」をテーマとしたパネルディスカッションを行いました。セミナーの内容を一部抜粋してレポートします。

<話者>
文部科学省 大臣官房審議官(初等中等教育局担当) 安彦 広斉 様(写真左から2番目)
鎌倉市 教育長 岩岡 寛人 様(写真右から2番目)
柏市 教育委員会 教育専門アドバイザー 西田 光昭 様(写真右)

<モデレーター>
IIJ 公共システム事業部 自治体等営業統括 丹野 圭二(写真左)

目次
  1. 令和3年度初等中等教育段階のSINET活用実証研究事業を振り返って
  2. 現在~今後のGIGAスクールを考える
  3. 文部科学省の近況ならびに今後の展開
  4. 参加者よりいただいたご質問と回答

IIJ丹野よりご挨拶と合わせて、ネットワークインフラを高速化する手法として、ベストエフォート型回線に代えて専用線を用いたパターンが増えてきていることについて事例を交えて紹介しました。

(クリックして拡大)

令和3年度初等中等教育段階のSINET活用実証研究事業を振り返って

令和3年度初等中等教育段階のSINET活用実証研究事業は、アフターGIGAスクールのネットワークを考える上でのヒントになります。有識者代表として委員長を務められた西田様より、「SINET導入・運用・活用に関するガイドブック」の内容を交え、本事業に関する総括をいただきました。

(クリックして拡大)

また、同事業への参画団体として鎌倉市教育委員会様からは、同事業の振り返りと共に現在取り組まれている内容について、鎌倉市教育委員会のネットワークの変遷と合わせてご紹介いただきました。

GIGA端末(iPad12,000台)の活用にあたり、ベストエフォート型回線を利用した構成では通信量が多いアプリやセッション数の多いアプリが動かないという状況でした。SINET実証実験は「大容量ネットワークを確保したときにどれだけの通信が使われるのか、ハイスペックな教育実践を行えるのか」見定める好機として参加されたそうです。

(クリックして拡大)

現在~今後のGIGAスクールを考える

GIGAスクール構想を経て、環境がどのように変化しつつあるかを中心に、次の観点でお話を伺いました。

  1. GIGAスクールを超えてどう変わったか?
  2. GIGAスクール構想におけるインフラはどうあるべきか?
  3. 現在の各団体の悩みどころは?
  4. 各団体がサービサーに求めることは?

「ネットワークの高速化によって、探求的な学びが花開いている主体的な学びの環境に、ICTは必須であると感じている一方で、ICTを“指導のツール”から“学びのツール”として活用していく上では課題もあり、過渡期にある」との認識も示されました。また、具体的なデータやネットワーク構成を踏まえた状況分析の重要性と共に、GIGAスクール環境を構築する各事業者間の連携や、お客様にとって分かりやすい提案への期待もいただきました。

(クリックして拡大)

文部科学省の近況ならびに今後の展開

次に安彦様より、令和4年度までの実証事業の成果を踏まえたSINETの初等中等教育への開放について、GIGAスクール構想がこれから目指すものについてお話いただきました。

(クリックして拡大)

参加者よりいただいたご質問と回答

ここで質疑応答の一部をご紹介します。

Q1.令和の日本型学校教育の具現化に向け、個別最適な学びと協働的な学びの往還が、今後の学びのスタイルになると考えています。その上で家庭での学びを取り戻すため(ゲーム一択のICTから学びの選択肢を広げる)に、予習(自分なりに学ぶ)の重要性を感じています。合わせて授業の改善も必要ですが、教員の指導者から伴走者へのマインドチェンジの難しさを感じています。教員へのアプローチや授業・家庭での学習など実践があれば教えてください。

(安彦)

もともと学習指導要領の中では、家庭との連携を図ること、生徒の学習習慣を確立することは、生涯に渡る学習に影響する極めて重要な課題であると書いています。

(ここでの掲載は割愛しますが、セミナーでは具体的な事例を示してご回答されました)

Q2.文部科学省から「校務DX」として、校務系と学習系のネットワーク統合や、ゼロトラスト化が提唱されています。そうした未来に向けて、どのような段階を踏んで整備したり、県内自治体の足並みを揃えたりすれば良いか知りたいです。

(西田)

校務システムをクラウドに持って行くことでDX化し、先生方の働き方を考えられないかという動きは出ています。柏市でも、はじめはバラバラだったサーバ類を1つにまとめるところから取り組み、次の段階ではオンプレミスをクラウドに持っていくということをしました。更に校務系と学習系、別々のネットワークにしないでできないかと考えているのが現在の状況です。そのためには認証が欠かせませんが、これに関しては昨年度、文部科学省で校務系・学習系ネットワークの連携に関する実証研究をされ、その中で連携に向けた移行ステップが資料として示されていますので、参考にされると良いと思います。

Q3.今年度、分離ネットワークから統合ネットワークへの移行について検討を始めたところです。統合ネットワーク環境下で、汎用クラウドツールとパブリッククラウド上の校務支援システムの活用を前提とした場合、その他に必須となるシステムや機能はどのようなものが挙げられますか。認証システムやデータを保存するクラウドストレージなど思い付きますが、必須のシステムや機能についてご教示ください。

(西田・丹野)

ネットワーク統合に関する考え方ですが、これについては文部科学省の「GIGAスクール構想の下での校務DXについて」という資料があります。この中に、環境を構築するときに必要な要素が書かれています。例えば、リスクベースでの認証、シングルサインオン化、通信経路暗号化、MDMによる端末管理など、いわゆるゼロトラストのセキュリティに向けてどのようなことを考えれば良いか書かれているため、参考にされると良いと思います。

Q4.学校のネットワーク環境整備について、国は一人当たり2Mbpsの帯域確保と言っているものの、基準としてはあいまいで高すぎると思います。端末の全台同時接続のためには、セッション数などの方が重要であると思いますし、Microsoft 365やGoogle WorkSpaceなどを利用すると、通常のインターネット接続よりもリッチな環境が必要に思います。どのような基準や考え方をもって整備を進めると良いか教えてください。具体的な事例を詳しく知りたいです。

(丹野)

市場の流れとしては、急増するトラフィックへの対策として、ベストエフォートなネットワークから帯域保証型ネットワークへ向かっていると考えています。

(クリックして拡大)

今年度文部科学省で、どんな業務でどんなトラフィックを使うかの実証実験をされていると聞いています。この中で、もう少し現実に即したトラフィックの量などが明らかになってくるのではないかと思います。

Q5.パスワードレスを目的とした顔認証システムや、シングルサインオンの実現について、学校教育の場での導入事例はありますか。

(丹野)

現場としては、まだあまり進んでいないようです。提案事例としては、とある政令指定都市様にて来年度、再来年から構築していくようなお話はあります。柏市の場合は教員端末にWindows端末を利用しているため、端末ログインという形ではありますが、Windows Helloを用いた顔認証を現実的にできる方法として始めたところです。シングルサインオンについては、校務系・学習系ネットワークの連携のあり方の検討もあると思いますし、実現する仕組みもいくつか考えられます。実現には、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。

Q6.デジタル教科書が本格導入された後の運用について。クラウド運用では学校規模が大きいと、通信環境が堪えられないと推察しています。クラウド運用、校内でのコンテンツキャッシュサーバー運用、ストレージへのダウンロードなど、いずれの方法が最適と考えられますか。

(丹野)

IIJでは、令和4年度の実証事業に参加しましたので、1つの例としてご紹介します。次の図は、この実証事業の中で1つのアイデアとして机上で設計したものです。簡単に言うと、インターネット側にある親CDNから、学校に設置した子CDNに夜間にデジタル教科書を配信する構成で、子供たちは子CDNからデジタル教科書をダウンロードします。これは机上検討の一例ですが、このようなアイデアも含め、今後、様々な検討がされていくと考えています。

(クリックして拡大)

第3回セミナー開催後のアンケート結果

アフターGIGAスクールに関するセミナーでは、多くの団体様での取り組み・お悩みごとなどを取り上げて案内する場として、今後も年に数回の開催を予定しています。次回は、2024年2月にお客様による事例紹介を予定しています。皆さまからのご意見、ご感想は次回以降のセミナーにも活かしていきます。ご参加をお待ちしています。