IIJでは、「アフターGIGA…
IIJでは、「アフターGIGAスクール」をテーマとしたWebセミナーを複数回にわたり開催しています。2024年1月に開催した第4回では、文部科学省 修学支援・教材課 神谷 征彦様、武蔵村山市 教育総務課 佐藤様、教育政策係 池谷様をお迎えし、「アフターGIGAスクールに必要なネットワークアセスメントとは」をテーマとしたWebセミナーを行いました。今回はセミナーの内容を一部抜粋してレポートします。
<話者>
文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課 GIGAスクール基盤チームリーダー(情報教育振興室長) 神谷 征彦様(写真左から2番目)
武蔵村山市 教育部 教育総務課 課長 佐藤 哲郎様(写真左から3番目)
武蔵村山市 教育部 教育総務課 教育政策係 係長 池谷 正太郎様(写真右から2番目)
IIJ プロフェッショナルサービス第一本部 コンサルティング部公共コンサルティング課 課長 浮田 康央(写真右)
IIJ 公共システム事業部 自治体等営業統括 丹野 圭二(写真左)
IIJ丹野よりご挨拶として、インターネット接続サービスの種別と現状の選択肢、スループットの実態について事例を交えてご紹介しました。
現状70%近くの教育委員会様が1Gbpsのベストエフォート型ネットワークを選択されている中で、ネットワークの負荷が見込まれるデジタル教科書・CBT利用にあたっては、専用線型のネットワークが主流になることが見込まれるという世の中の流れをご説明しつつ、まずはWANの話も含めてネットワークのどこにボトルネックがあるのかということをアセスメントで把握いただきたいということをお話しました。
文部科学省が令和5年8月末に令和6年度概算要求として計上した「ネットワークアセスメント実施促進事業」について、内容が拡充された上で令和5年度補正予算として計上されました。今までGIGAスクール運営支援センターの予算の枠組みの中に組み込まれていた「ネットワークアセスメント」が1つの事業として切り出され、拡充されて予算化された背景について、神谷様に説明いただきました。
背景には、GIGAスクール構想の成果が出つつある一方で、一人一台端末の更新が進む「第2期」に向けて端末の利活用の地域間格差が課題となっており、その大きな要因の1つとして、ネットワークの帯域不足が挙げられていることがあります。ブラウザを通じてクラウドにアクセスすることを基本とするGIGAスクール構想において通信環境は非常に重要ですが、令和4年9月に実施した簡易なサンプル調査では、同時に半数の児童生徒が利用する場合に、1人当たり2Mbpsの帯域が実現されている学校は4割弱に留まりました。
各府省庁が事業の進捗や効果を検証する「行政事業レビュー」や、デジタルを最大限に活用して社会変革を目指す政府の「デジタル行財政改革会議」においても、文部科学省からはGIGAスクール構想におけるネットワークの改善の必要性や、その第一歩としてのアセスメントの重要性の認識が示されています。文部科学省では今後、教育DXの政策効果の発現に向けた各種KPIを設定していくこととしており、ネットワークの改善についての指標も設定される予定です。
IIJ浮田より、そもそもネットワークアセスメントとは何か、ネットワーク事業者であるIIJが教育委員会様に対し実施しているネットワークアセスメントの概要についてご紹介しました。
IIJでは現行のネットワーク環境の可視化、トラフィックデータの収集及び分析、アセスメント結果報告及びネットワーク改善案のご提案という、大きく分けて3つのプロセスでネットワークアセスメントを実施します。校内ネットワークからWAN及びデータセンタを含むインターネット接続環境を範囲とし、改善案として校内ネットワークの論理分割から回線品目の変更、ファイアウォールを含むネットワーク機器の交換などを総合的にご提案できることをお話しました。
令和5年度にIIJがネットワークアセスメントを担当した武蔵村山市様について、佐藤様、池谷様とIIJ浮田の3人が事例を交えてお話しました。
ネットワークアセスメント実施の流れに基づき、武蔵村山市様での実施スケジュールと各フェーズにおける取り組みについてご紹介。現行完成図書からネットワーク構成を可視化した際に改めて判明したこと、実地調査対象校の選出のポイントについて武蔵村山市様から、IIJからの改善案の提案内容を一部IIJ浮田からお話しました。武蔵村山市様には、改善案の提案内容を踏まえたアセスメント結果の活用方法や、今後の計画についても最後に教えていただきました。
皆さまからいただいたご質問を、当日回答した内容を含めてご紹介します。
(神谷様)
ネットワークアセスメントへの補助は、現行のGIGAスクール運営支援センターのスキームと同様に、都道府県や市町村が実施する事業に対する補助であり、仮に都道府県や市町村において私立学校を対象としたアセスメントを行うとの判断がなされる場合には、補助対象となります。なお、補助が行われる場合の具体的項目に関してですが、アセスメントの結果を受けての、応急的な処置としての機器の設定変更等も補助対象となります。
(丹野)
セカンドオピニオンという考え方にもとづき、第三者の視点で設定や中身を確認して全体を捉えていくことが重要と考えています。現行の事業者様を排除するという意味ではなく、比較をされるべきと思います。入札スタイルについても、一般競争入札より、提案型の入札にされて提案内容に重きを置き、事業者を決定されることを推奨します。
(神谷様)
経費については、必ずしも十分とは言えないかもしれませんが、補正予算としての要求に当たって予算額を増額しスキームを工夫するなど、改善を図っています。交付される補助金の上限が学校数ベースで計算されることも踏まえて、効果的・効率的な実施を検討いただければと思います。武蔵村山市様の事例紹介において、各校のネットワーク構成をパターン化した上で調査を行ったとのことでしたが、このような効率的な実施も工夫できるのではないかと思います。
理論的に整備が完了している中で敢えて可視化する意味は何か、とのご指摘につきましては、まずネットワーク環境は電波状況のほか、ベストエフォート型回線の場合にあっては近隣ユーザーの影響もあるなど、時とともに変化します。また、GIGAスクール構想第1期にて学校現場においては、コロナ対応が過酷を極める中で最大限に努力いただき、ネットワーク整備を行っていただきましたが、急場での整備であったが故に改善点が存在する場合があることも否定できないと考えています。
コンテンツキャッシュや、サイト別のローカルブレイクアウトについては、各校の状況や課題が明確に特定されている場合に解決策となる場合もありますが、常に解決策になるとは限らないとの考えです。例えば、コンテンツキャッシュについては、暗号化された通信の扱いなど、すべてがキャッシュされるとは限らない中で、教育現場にキャッシュサーバを導入した場合のトータルでの効果は、利用態様によって様々ではないかと思います。サイト別のローカルブレイクアウトについても、ベストエフォート型の場合にはローカルブレイクアウトした先での回線集約の状況が学校や教育委員会ではコントロールできないという点が課題になる場合もあると考えており、これもまた、ケースバイケースと思われます。このように各校状況が異なることから、最もお金をかけるべきポイントについて一概にお答えすることは難しいところですが、少なくとも、ネットワークに課題がある場合には、補助金も活用いただきつつ、アセスメントによって原因の特定を行っていただく必要があると考えていますし、多くの自治体において共通に原因となる課題があり、その解決にはコストがネックになるということがあぶり出されてくれば、文部科学省としても対応を検討していく必要があると考えています。
(浮田)
可能であれば全校実施することが理想ではありますが、様々な条件もあるかと思いますので、その中である程度構成機材やネットワーク構成ポリシーが統一されている団体様でしたらその中でも規模別に数校選択してネットワークアセスメントを実施するという手法でも十分効果的であると思います。すべての学校が統一のポリシーの中で賄えているわけではないかと存じますので、個別に構築された学校に対しては個別にアセスメントを実施されるのが良いかと思います。
(神谷様)
令和5年度補正予算において、1人1台端末の更新を補助するための基金を都道府県に造成する経費を計上しています。この予算の執行スキームを近々公表すべく準備を進めていますが、補助の条件として、自治体に各種計画を策定いただくことを検討しており、ネットワークの整備計画もこれに含めていく考えです。求める計画の粒度は検討中ですが、少なくとも、十分な速度が出ていない場合にネットワークアセスメントを実施することは、計画に含めていただきたいと考えています。
その他多くのご質問をいただきましたが、当日は時間の都合上すべてに回答できませんでした。改めて、いただいたご質問及びその回答をご紹介します。
(丹野)
Wi-Fiの高速化にはいくつかの手法があります。代表的な手法をお伝えします。不明な点などについては、別途お問い合わせください。
<物理/論理面>
(浮田)
トラフィック可視化ツールとしては、ManageEngine社の「NetFlow Analyzer」やフリーでも利用可能な「PRTG Network Monitor」などが比較的分かりやすく、操作も容易なツールかと思います。
ただし、機材側でツールに対応しているかや、どのようなトラフィックを可視化したいかによってもおすすめできるツールが変わってくるので、既存のネットワークベンダー様ともご相談ください。
(浮田)
負荷テストについては、実際に負荷をかけていただく方法が良いです。特にWAN回線の上限については実際に負荷をかけてみないと理論値での上限推測となってしまうため、ぜひご検討ください。
疑似的な負荷を与えるという点においては、タブレット端末の全台同時アップデートを例示しましたが、これ以外にも、特定端末から大容量ファイル(数GB程度)のダウンロードなども有効な手段かと考えます。また、どうしても負荷テストの実施が難しい場合は、ネットワーク負荷が高そうな行事(例えば、全校放送の一斉配信など)や、ネットワークが遅いと声が上がっている時間帯など、特定の日時に絞ってトラフィック計測を行うことも有効な手段です。
(浮田)
ランキングは提示していませんが、ボトルネックの要因は校内LANに起因するものが多く、機材の性能不足(無線APやプロキシ)や、校内LANの検討不足といったケースが多いように見受けられます。
応急対応ではありませんが、アセスメント実施後、機材の更改や校内ネットワークの再設計を次年度予算としてご検討されているとお伺いしています。
(浮田)
仕様中に含めていただきたい内容として、机上調査のみではなく、是非、実際にトラフィック計測を行うことを含めていただきたいです。
WANやLANを含めた現状のトラフィック量を把握した上で、機材やトポロジーが適切な構成となっているか判断することが重要なポイントです。
(浮田)
紹介の中では、1クラス分のタブレット端末の全台同時アップデートを例示しましたが、これ以外にも、特定端末から大容量ファイル(数GB程度)のダウンロードなども有効な手段です。
(神谷様)
一般論となりますが、交付決定をまだ行っていない国の予算については、国において繰り越しを行うことが考えられます(交付決定済の予算については、地方自治体側において繰り越しを行っていただく必要があります)。
(丹野)
個別回答とさせていただきます。
(神谷様)
Q5をご覧ください。
(丹野)
弊社が実施するネットワークアセスメントの代表例として4~5校を調査するという前提でお話しますと、全体の工期を5ヵ月と想定し、当初2ヵ月間で全体の把握、1ヵ月間で準備、1ヵ月を測定期間とし最後の1ヵ月でレポートを作成という流れになっています。この間に夏休みを挟みますと、仰るとおり児童生徒たちが実利用していないところで、ネットワーク測定をする結果となるので、なるべく夏休み期間を外す形で調査ができるよう配慮いただけると、より実態に近いレポートがご提出できます。
(武蔵村山市様)
導入当初から、特に同時接続に対する御相談は数多くいただいていました。これまで第三者によるアセスメントを実施していなかったので、今年度の実施に至りました。
(浮田)
現行事業者様とは、設計図書の共有(基本設計書や詳細設計書、機材のパラーメータシートなど)と、トラフィック計測にあたり、計測対象の擦り合わせや計測結果の提供などを依頼しました。
(浮田)
ネットワークを構成するルータやスイッチ類などの各機材において、トラフィックの流量やCPU/メモリの使用率などが収集できる監視システムでしたら問題ないです。一般的にはSNMPトラップを用いた監視装置となることが多いです。
多数のご質問をお寄せいただきありがとうございました。
アフターGIGAスクールに関するセミナーを来年度も複数回開催予定です。皆さまからのご意見、ご感想を次回以降のセミナーにも活かしていきます。皆さまのご参加をお待ちしています。