在宅医療・福祉連携の推進における電子@連絡帳の活用 愛知県豊田市

トヨタ自動車のお膝元として知られる愛知県豊田市では、中長期的な視点を持ち、「在宅医療・福祉連携推進計画」にもとづき、「IIJ電子@連絡帳サービス」を活用している。

豊田市役所 福祉部
地域包括ケア企画課 課長
水野 智弘 氏

目次
  1. 豊田市は日本の縮図
  2. 利用促進に向けて
  3. 豊田市が進める「意思決定支援」
  4. より使いやすいツールを

豊田市は日本の縮図

——まずは「IIJ電子@連絡帳サービス」を導入された経緯から教えてください。

水野
豊田市では「育て・つながり・安心して療養生活を全うできるまち」を目標に掲げ、「在宅医療・福祉連携推進計画」を進めています。その背景には、豊田市では2025年までに今の約三倍にあたる2200人程度の在宅療養を必要とする市民が出るというデータがあります。また、我々のアンケートにお答えいただいた方の約六割が在宅療養を希望されているという結果もあります。そこで市では、安心して在宅療養を選択していただける環境の構築を図っているわけですが、ひと口に「医療・福祉連携」と申しましても、行政が主導するだけではうまく機能しませんので、多職種の皆さんを巻き込みながら、より円滑な連携を目指すためのツールとして電子@連絡帳の活用に至りました。

——在宅医療・福祉連携推進計画をご説明いただけますか。

水野

二つの大きな方針と、それらを細分化した施策から成り立っています。

大きな方針の一つ目は「在宅医療・福祉基盤の強化」です。そのためには、①サービスを提供する「人材の確保・育成」、②サービス提供者の「負担軽減」、③在宅療養を行なうための「拠点整備」が必要になります。二つ目の方針は「在宅療養『資源』の効率的な活用の実現」です。これを行なうには、①市民に向けた「普及啓発の強化」と、②サービス提供者の「多職種連携の強化」が重要になります。

そして電子@連絡帳は、おもに在宅療養に関わるサービス提供者の「多職種連携の強化」を実現するうえで、大きな役割を果たしてくれると期待しています。

——豊田市さんにはトヨタ自動車という大企業があり、若い世代も多いと思うのですが、市全体の現状は、どういった感じになっているのですか?

水野
我々が豊田市を説明する際に「豊田市は日本の縮図です」という言い方をよくします。918平方キロメートルという広大な市の面積の約七割を森林が占める一方、人口(42万人)の95パーセントが都市部に集中しています。よって行政の施策も、都市部対策と、過疎化が進む山間部対策の二通りが必要になります。そういう点で、我々の取り組みは、日本の多くの市町村の参考になると思います。実際、車で移動しても、市の端から端まで二時間くらいかかることもあり、そういった物理的な距離感をICTツールで埋めていきたいと考えています。

利用促進に向けて

——現在、どのような課題がありますか?

水野

導入から三年目に入っていますが、利用者数は伸び悩んでいます。実際に使っていただければメリットを実感できると思うのですが、ICTツールならではの敷居の高さがあったり、「使い始めるキッカケがない」とか、「あの事業所が利用するなら、うちも利用するんだけど」とおっしゃる方も多い。あとは、電子@連絡帳は国が定めるガイドラインに準拠した充分なセキュリティ対策を実施したシステムですが、それ以上の基準を事業所独自で設けている場合には加入がむずかしいところもあります。

そうは言っても、利用者を増やしていかなければなりませんので、行政から積極的に電子@連絡帳への出張登録や利用説明会などを行なって、普及・促進に努めています。

——ご利用いただくなかで得られた気づきやメリットなどはありますか?

水野

場で起こっていることをリアルタイムに伝達・共有できる点は、電子@連絡帳ならではだと思います。多職種間のコミュニケーションも、例えば、訪問看護師さんが薬剤師さんに薬の飲み方のアドバイスをあおいだり、フェイス・ツー・フェイスとはいかないまでも、映像や画像を介したリアルなコミュニケーションをとったりすることも可能です。そういった連携の強化・効率化が最大のメリットではないでしょうか。

あとは、各事業者さんとつながることができますので、我々のほうから医療・福祉の現場に参考となる情報を伝える際にも効果的に使っていきたいです。

豊田市が進める「意思決定支援」

——豊田市さんでは、独自の取り組みとして「意思決定支援」を行なっているということですが、その概要を教えていただけますか。

水野

在宅療養を推進するなかで、在宅療養者一人ひとりの意思にどう寄り添っていくのか、在宅療養者を支援する関係者がどうすれば効果的に意思決定支援に関われるのか、という課題意識を持つようになりました。これはつまり、意思決定支援を現場でどう実践するのかということでして、そのためには、多職種から構成される在宅医療・福祉のサービス提供者が在宅療養者をサポートする際、その方の意思にもとづいた一つの方向性を共有している必要があります。

そこで豊田市では、二年前から医師会とも連携して、多職種の医療・福祉関係者を対象に意思決定支援に関する研修会を開いたり、昨年度は意思決定支援をテーマとしたシンポジウム・研修会を開催するなど実践的な取り組みを進めています。次のステップとして、今年度から多職種で構成されるワーキンググループを設置し、「豊田市版 意思決定支援をサポートするポイント集」(仮題)を策定しています。

——「ポイント集」は、どういった内容なのですか?

水野

在宅療養には、終末期の方もいれば、障がい者の方もいて、さまざまな職種の方が関わりますので、豊田市が目指す在宅療養の考え方を共有したうえで、職種毎に「どのステージで、何をすべきなのか?」や「気をつける点は何なのか?」、そして「連携するうえでの配慮事項」などを整理しています。

おそらくこうしたことは、皆さん、普段から実践されていると思うのですが、それらを文書化しておくことで、現場の人や新しく職場に就かれた方にも役立つでしょうし、副次的な効果として、豊田市の在宅療養の質も上がるのではないかと考えています。

ただ、「ポイント集」を活用することが目的ではなく、これを活用して確認した本人の意思をどう記録やデータで保存し、必要となるサービスへつないでいくのか、また、本人の希望する生活につなげていくのかが重要です。ワーキンググループでは引き続き皆さんの意見を取り入れながら、ゆくゆくは電子@連絡帳のようなICTツールを活用した意思決定支援の取り組みも展開していきたいと思っています。

——そうした基本事項を共有するには、電子@連絡帳のようなシステムは最適ですね。

水野
おっしゃる通りです。情報を共有できるツールがないと、職種や人が代わるたびにバラバラなアプローチになりがちです。一方、共通のゴールをイメージできれば、気持ちを一つにして集まれると思うのです。一人の人間の生活をどのように見守っていくのかという問題は重大ですから、それに対する想いを切らさないためにも、意思決定支援の指針となる「ポイント集」や、多職種の方がいつでも閲覧可能な電子@連絡帳を活用するアイデアが出てきたわけです。

——意思決定支援を、行政・医療・福祉関係者の地域全体で住民の意思をもとに組み立てていく、というのは新しい価値観だと思うので、軌道に乗るといいですね。

より使いやすいツールを

——最後に、電子@連絡帳へのご要望などをお聞かせください。

水野
ICTツールを活用した情報連携にはさまざまな可能性があると思います。その一例が「意思決定支援」であり、さらに、お医者さんからは「地域連携パス」を電子@連絡帳で見られたらいいのに、という意見も寄せられています。

——「地域連携パス」とは、どういったものですか?

水野

地域の中核病院と連携する医療機関が共通のシートを使い、患者情報を共有し、継続的な治療とケアを充実させるためのものです。この地域連携パスはすでに活用されているので、将来的には電子@連絡帳にもそれを載せて、より包括的なネットワークを構築していきたい、ということです。

その他の課題を挙げますと、ICTツールというものはリテラシーが低い方でも利用できないと、なかなか浸透していきません。そういった意味で、とにかく使いやすく、簡便で、できればコストを抑えたシステムにしていただきたいというのが、我々からのリクエストです。

——承知しました。豊田市さんが進めている、より魅力的な街づくりに電子@連絡帳が貢献できるよう、ユーザビリティの向上に努めてまいります。本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

特集イラスト/高橋 庸平

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※IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.156」(2020年2月発行)より転載」