IoTを活用したwithコロナ/afterコロナ時代のビジネスモデル変革

※ IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.159」(2020年8月発行)より転載

目下、各分野でIoT化が急速に進んでいる。本稿では、IIJのIoT事業の骨子をまとめた上で、来るべきビジネスモデルの在り方について考えてみたい。

IIJ IoTビジネス事業部長 岡田 晋介

目次
  1. 業務の現場に浸透する IoT
  2. 全てのモノがインターネットにつながる
  3. IIJのIoT事業
  4. IIJ IoTサービス
  5. 新たなサービスソリューションの開発・展開

業務の現場に浸透するIoT

工場などの生産現場、水田などの農地、自然エネルギーの発電設備、商業施設、集合住宅など。IoT事業に取り組んでいると、お客様の業務の現場へ訪問する機会が増えます。IoTで実現したいビジネス、解決すべき課題は、実際のフィールドに存在していることが多いからです。

ところが2020年に入り、新型コロナウイルスの感染拡大により、状況が一変しました。リモートワークが急速に広がり、特に4月に緊急事態宣言が出たあたりから、現場への訪問は以前のようにはいかなくなりました。どうしたものかと考えたのですが、現場を直接、見ることができないで一番困っているのは、お客様自身ではないか?――現場に行けない当事者になることで、これまで以上に実感が湧いてきました。すると、社内からアイデアが出てきます。

あるお客様の工場では、他の企業から仕事の委託を受けているのですが、委託企業による工場の監査が義務付けられています。その話を伺い、「360度カメラをネットワークに接続して、リアルタイムでリモート見学できるようにしたらどうか?」と思い、早速検証してみたところ、「始めてみたい」という話になりました。このユースケースは、コロナ禍に関係なく、業務効率を向上させる上でも有効な手法ですが、“リモートが当たり前の社会”に変わりつつあることで、必然性がより高まった、と感じます。

ここしばらくは、新規投資が一時的に抑制されると思われますが、「withコロナ/afterコロナ時代」に向けて、ビジネスのかたちも変えなくてはならないという気運が高まりつつあります。他方、ここ数年のIoT分野を振り返ったとき、2018年から2019年にかけてもかなり大きな変化が見られました。IIJにお寄せいただいた IoT関連案件も、2019年度は前年比で2倍に増えました。件数だけでなく内容の変化も大きく、数年前はPoC(概念実証)が主でしたが、近年は本番システムが中心になっています。 我々がIoT関連でご一緒させていただくお客様は、事業部門、製品開発部門、営業部門などが多くを占めます。2019年度に我々のIoTビジネス事業部が取り組んだ案件の約9割は、非情報システム部門でした。これはつまり、直接収益をあげたり、新商品を開発する部門がIoT化に取り組み始めていることの現れだと思います。

全てのモノがインターネットにつながる

IoT(Internet of Things)の「Things(モノ)」とは、住宅、建物、車、家電、産業用設備やセンサー機器など、これまでインターネットに接続されていなかったモノです。言い換えると、企業が生産するプロダクト全般が対象になります。IoTとは、こうしたモノがネットワーク化されて、それらから集められたデータをビジネスに活用すること、と言えます。

データをビジネスに活用するとはどういうことか?難しい統計解析技術を駆使する場合もありますが、多くのケースはもっとシンプルに捉えられます。一例として、IIJが関わった計測器(重さを測るはかり)のIoT化案件を紹介します。 このお客様は「重さを測る製品」を販売していますが、エンドユーザが計測器を使う目的・業務にまで踏み込んで、「測った重さを記録・管理する機能」を“付加価値”として提供したい、と考えました。計測器は様々な分野で活用されますが、「重さ=お金」であったり、「重さ=品質(の確認根拠)」であったりするので、こうした情報の記録と管理は重要な業務なのです。そして、依然として手間がかかる「紙による記録」が行われている分野でもあります。このように自社の製品やサービスにネットワーク機能を組み込むことで、従来のビジネスモデルを変化させ、新たな価値を創出する活動がIoTをビジネスに活かす典型と言えます。

こうしたことを可能にする技術革新はもうとっくに進んでおり、徐々に活用シーンも増え、成功事例が現れ始めたことで、「実はそれほど難しく考える必要はないのだ」という理解が進み、更には、ビジネスモデルの変革を迫られる外的要因も重なって、IoT導入が加速しているのだと思います。

IIJのIoT事業

IIJでは、IoT化によるビジネス実現を目指すお客さまをサポートする上で、2つの活動を軸としてきました。1つは、IIJが既に提供しているネットワーク、クラウド、及びセキュリティといったITサービスを進化させると同時に、IoTマーケットに適した形でお客様に提供する活動。もう1つは、IoTマーケットに向けて新たなサービスソリューションを開発・展開する活動です。

IIJ IoTサービス

1つ目の主な活動としては、2016年末より展開している「IIJ IoTサービス」の拡充が挙げられます。IIJ IoTサービスは、閉域モバイルネットワークをはじめとしたネットワーク機能と、IoTを実現する上で欠かすことのできない、機器のリモート管理やメンテナンス、パブリッククラウドとの連携機能などをまとめて提供します。

例えば、産業向け設備を作って販売する事業を手がけるお客様が IoTに取り組む場合、個々の用途を別にすれば、設備(製品)にネットワーク機能を組み込んでデータを取得したり、リモートで監視・制御するといった基本的な仕組みは共通であると言えます。また、IIJ IoTサービスでは、そうした IoT化に不可欠な機能に加え、「監視する仕組みそのもの」を健全に保つための管理機能も提供しています。なお、このサービスは、IIJ自身がIoTマーケットで新たに展開する全サービスソリューションの土台にもなっており、自分たちでもサービスを使うことで内容を常に進化させています。

IoTに必要なネットワーク機能の拡充も進めており、2019年から「IIJ LoRaWAN®ソリューション」を提供しています。LPWA(Low Power、Wide Area)は、免許を必要とするライセンスバンドと免許不要のアンライセンスバンドに区分けされますが、ライセンスバンドのLTE-MはフルMVNOサービスで提供し、アンライセンスバンドは LoRaWAN®で展開しています。

IoTにおけるネットワークは、技術的特性やコストにもとづいた使い分けが重要です。複合商業施設や広い敷地の工場など限定されたフィールドでは、セルラーバンドを使うLTE-Mなら基地局を設ける必要がない一方、電波が届きづらい空間をカバーすることが困難な場合も出てきます。そんなときは、独自に設置できる LoRaWAN®を用いた解決策が考えられます。Wi‒Fiでもいいのでは?という意見もあるかもしれませんが、カバーできるエリアが広い LoRaWAN®は、ゲートウェイ(基地局)の数を抑えることができ、コスト面でも優位です。電源の取り回しが難しい環境でも、長時間電池駆動が可能というメリットもあります。もちろん、通信速度などには制約があり、使い分けは必要です。

5Gに関しては、2019年からローカル5G活用を目的とした無線プラットフォーム事業を、住友商事、ケーブルテレビ事業者各社とともに展開しています。キャリアによる5Gの商用サービスも2020年3月からNTTドコモを皮切りにスタートしました。5Gの実フィールドでの活用はまだこれからですが、IIJではIoTに必要な全てのネットワーク機能をお客様にお届けすべく、技術開発とサービス展開を進めていきます。

新たなサービスソリューションの開発・展開

軸となる2つ目の活動に関しては、分野を特化してサービスソリューションの開発・展開を進めてきました。我々が考えるIoTは、ITパーツをIoTマーケットへ届けるだけでなく、センサー、ネットワーク、クラウド、アプリケーションまでをワンパッケージでサービスソリューションとしてお届けすることを目指しています。IIJ単独では提供が難しいセンサーやゲートウェイ機器などのプロダクト、及びアプリケーションの一部は、パートナー企業と協業することでワンパッケージ化を図っています。

こうする理由はいくつかありますが、我々自身がプレーヤーとして現場により近いところで活動することで市場を盛り上げると共に、課題解決を図りながら現場のニーズを取り込み、IIJのサービスを進化させたいという思いがあるためです。これから IoT化を目指すお客様が「ITパーツをどう使うか?」といったことで悩む必要がなく、迅速にビジネスを実現するためのサービスソリューションを提供していきたいと考えています。

現在、サービスソリューションの展開に注力している分野は、産業(製造業)、農業、住宅、エネルギーなどです。いずれも幅広い領域ですので、ターゲットを絞って活動しています。

産業領域で更なる展開を進めるにあたって、産業設備を対象としたリモート監視やアフターサービスの高度化、及び保守点検業務効率の向上といったテーマに力を入れています。例えば、フィールドメンテナンス作業は、物理的な距離はもとより、現地作業の手続きが煩雑、または危険を伴う場所での作業であったりするので、リモート化がより求められる分野です。IIJでは、オフィスワークに限らず、フィールドワークのリモート監視・管理についても新しいソリューションを近々リリースする予定です。

農業領域では、過去3年にわたり、水田をターゲットに活動を続け、去る2020年6月にスマート農業の実証事業に関する総括を発表しました。水田の水管理に要するコストを1/2にすることを目標に、足しげく現場に通い、泥にまみれて取り組んできた水管理に関する活動は、「IIJ水管理プラットフォーム for 水田」としてサービス化され、2020年3月から販売を開始しています。

住宅領域では、家の中の「人」に着目し、特に高齢者の見守りに力を入れています。要介護となる前に健康状態の変化をいち早く捉えて対処できる手助けを行えるよう、自治体とも連携しながら実証を進めています。

エネルギー領域については、以前よりデマンド監視・管理を軸とした展開を進めており、電力保安点検業務への応用が進んでいます。また、新たな方式による検針のスマート化の取り組みも実証段階に入りつつあります。

インターネットは、人と人とのつながり、ビジネスの在り方、さらには社会そのものを変革してきました。今、IoTによって新たにネットワークの活用シーンが広がり、産業の仕組みが大きく変化しようとしています。そして、この度の新型コロナウイルスによって半ば強制的にIT化が進むこととなり、これから一層変化が加速すると考えられます。IIJはそうした変化を積極的に受け入れ、新しい技術をサービスとして形にし、IoT市場へ届けて参りますので、引き続き我々の取り組みにご期待ください。

(イラスト/高橋 庸平)

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