スマート農業の現状と今後

※ IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.159」(2020年8月発行)より転載

農業全般におけるICT活用を総括し、その課題と展望について考察する。

一般社団法人 日本農業情報システム協会(JAISA)専務理事 堀 明人氏

目次
  1. スマート農業への関心
  2. 5つの技術分野

スマート農業への関心

筆者はスマート農業(農業でのICT活用)に、かれこれ10年ほど取り組んできました。最近では、IIJさんとご一緒させていただいた静岡県での実証プロジェクトや、北海道新十津川町、長崎県南島原市、大阪府能勢町天王地区でのスマート農業実証プロジェクト、東京都IoT研究会での農業WGなど、全国各地のスマート農業の現場で仕事をさせていただいています。

近年、注目を集めているスマート農業ですが、実は10年ほど前からその萌芽が見え始めていました。例えば、十勝平野では衛星データにもとづいた小麦の管理が行われていましたし、九州の農業法人では現場の生産管理にICTを活用していました。自然を相手にする農業にICT技術をどう活用していくのか、数年にわたる全国各地でのチャレンジを経て、知見がじわじわと蓄えられてきました。

そうした中、スマートフォンの登場を機にICTのコストが劇的に低下したことと、農業の担い手が目に見えて減少してきたことが主たる要因となって、燎原の火のごとく農業界にスマート農業への関心が広がりました。

5つの技術分野

スマート農業は、次の5つの技術分野に大別できます。

①農業機器の自動化・インテリジェント化

この動きがICT活用に対する農業界の空気を一変させたといっても過言ではありません。ロボットトラクターを筆頭に、田植機、コンバイン、草刈機、野菜収穫機など、従来から使用してきた機器が自動的・自律的に動くようになることは、スマート農業のコンセプトをわかりやすく農業者に伝える上で絶大な効果がありました。

②デジタル機器の農業への応用

これはスマートフォン、ドローン、環境計測センサなど、他産業やコンシューマ用途で使われているデジタル機器の活用を指します。農業経営者の世代交代が進み、デジタルネイティブが現場の最前線で働く時代となり、新しい経営者は躊躇なく最新デジタル機器を農場でトライし、経営向上に役立て始めています。

③営農管理系ソフトウェアの活用

栽培管理、農作業記録、勤怠、受発注、会計、経営管理など、規模が拡大しつつある農業経営において、資産や活動をデータで管理することは今や必須です。農業法人や大規模経営体では、もはや当たり前のツールとなっています。

④営農基盤の整備

農地、農道、用水、通信、制度、教育など、Beforeスマート農業とAfterスマート農業では、インフラに求められる要件が変わるのは当然のことです。自動運転トラクターが運行しやすいように農道や農場を整備したり、複数の環境センサを低コストで通信できるようにLPWAを活用するなど、農業インフラの革新へのチャレンジが今、始まっています。

⑤解析技術の開発

作物、土壌、病害虫の発生など、様々な農場の環境データが得られるようになり、そうしたデータをどう活かすかが、これからの競争の主戦場となります。データを解析するアルゴリズムの知的財産化や、データをもとにした管理ノウハウの他農業者へのサービス提供、その延長線上での組織化など、業界の枠組みが大きく変容していくことが予想されます。

スマート農業は、農業者のライフスタイルを好転させるテクノロジーです。まだまだ課題は山積しており、普及前夜という段階ではありますが、省力化、可視化、情報共有など、多くの農業現場の課題をICTの力で解決できることが証明されつつあります。

今後、農業者は、フルデジタルの農業経営を志向するのか、あえてデジタル化の範囲を狭めた経営を選ぶのか、スマート農業の取捨選択をしていくようになるでしょう。その結果、日本の農業は多彩かつ個性的で、変化に強いものになっていくのではないか―スマート農業に取り組む日々の中で、そんな未来図を思い描いています。

堀 明人(ほり あきひと)
情報通信業界において情シス・マーケ・営業と一貫して企画畑を歩む。英国勤務時代に自分らしく生きる英国人のライフスタイルに強く共感し39歳で独立。ITコンサルタント、観光農園の経営、業界団体の運営など多分野で精力的に活動中。経済産業省推奨資格 ITコーディネータ。

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