※ IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.159」(2020年8月発行)より転載
超高齢社会をむかえた日本では、独居高齢者のケアの在り方が社会的課題となっている。 その課題にIoTで寄り添う事例として、合同会社ネコリコが提供している「高齢者見守りサービス」を紹介する。
合同会社ネコリコ 企画部 担当部長 西田 修平
「高齢者事業に活用できないか」「事故物件対策として検討したい」―これらは、弊社が提供する個人向けサービス「ネコリコホームプラス」を法人のお客様に紹介した際に寄せられた声の1例です。共通するキーワードは「孤立死(誰にも看取られることなく亡くなったあとに発見される死)」です。
内閣府の「高齢社会白書」によると、「東京23区内における1人暮らしで、65歳以上の人の自宅での死亡者数」は年々増加傾向にあり、近年は3,000人前後にのぼっています。全国の人口と死亡者数から単純計算すると、およそ50人に1人が孤立死していると推計できます。
合同会社ネコリコは、中部電力株式会社とIIJの合弁会社として、2018年4月に設立されました。前述した「ネコリコホームプラス」は、家庭内に設置した様々なセンサーやスマートメータなどから収集したデータを、IoTゲートウェイを介してクラウドに集約・分析し、お客さまの役に立つ情報をLINEメッセージでお知らせするサービスです。例えば、「留守番しているペットの熱中症対策」「子供部屋の換気」「外出中の防犯」「離れて暮らす家族の様子」など、自宅に関する「ちょっとした不安や心配事」に寄り添い、IoTで解消していくことを目指しています。
ネコリコでは、「孤立死」という「社会の心配事」の解決を目指して、IoTを活用した一人暮らしの高齢者を対象とした法人向け見守りサービス「独居ケアアシスタント」を、2020年4月より提供しています。このサービスは、高齢者の冷蔵庫にセンサーを設置し、高齢者はいつも通りの生活を送っていただくだけで「見守り」を実現できます。
具体的には、冷蔵庫に設置したセンサーがドアの開閉を検知し、一定時間動きがない場合に、離れて暮らす家族など「見守る人」にメールでお知らせが届きます。
シンプルさを徹底したことで、自治体における1人暮らし高齢者の対策事業、家賃の支払いや事故物件などのリスクがある賃貸物件における高齢者の住居問題対策など、多くのシーンで活用しやすいサービスになっています。
「高齢者見守りサービス」としてセンサーを利用するには、ドアの開閉を検知すれば解決するといった単純なものではありません。①通信インフラ、②設置方法、③費用、④見守ってもらうことへの遠慮や負担感……などを考慮する必要がありました。例えば、「見守られる」高齢者宅には、Wi-Fiネットワーク環境がないことが多く、電源コンセントの確保もむずかしいのが現状です。
そこで、センサーには、コンパクトなサイズに各種センサーと「LTE Cat.M1」を搭載した京セラ株式会社の「GPSマルチユニット」をネコリコ向けにカスタマイズしたモデルを採用しています。また、データ通信には、フルMVNOサービス「IIJモバイルサービス/タイプI」を利用し、多彩な料金プランにより、コストを最小限に抑えています。さらに、検知データは、閉域網によるセキュアな通信で「IIJ IoTサービス」の基盤に接続し、クラウドストレージ上に蓄積しています。蓄積したデータは、APIを利用して取り出し、「高齢者見守りサービス」として活用しています。
そして「④見守ってもらうことへの遠慮や負担感」に対しては、冷蔵庫の開閉という日常の行動を検知することで、「見守る人」と「見守られる人」の双方に負担が少なく、プライバシーにも配慮しながら「さりげなく」見守れることをコンセプトとしてサービスを検討しました。
今後、社会状況が大きく変化し、新たな生活様式が確立していく過程で、「孤立死」のような社会問題が増えていくことが予想されます。そうしたなか、IoTを活用した弊社のサービスが、「社会の心配事」を解決するにあたっての手段であることを忘れずに、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らしていけるようにといった目的を見失うことなく、サービスを提供していきたいと考えています。