※ IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.159」(2020年8月発行)より転載
我々の食の安全は、いまだ多くの手作業によって守られている。 IoTを有効活用することで、それらを自動化しつつ、より合理的な手法に改善していく試みを紹介する。
IIJ IoTビジネス事業部 IoT営業課 田畑 稔
HACCP(ハサップ:Hazard Analysis and Critical Control Point)の起源は1960年代、米国NASAが宇宙食の安全確保のために開発・導入した管理手法に遡ります。食品の安全性を担保するため、各製造工程において、どこで異物が混入し、微生物汚染などの危害が発生するかを予測・分析して、未然に防ぐことを目的としています。
従来は、抜き取りランダム検査により、汚染・欠陥があれば一連の製品を出荷停止して、流通を防いでいました。現在は、検査時のすり抜けなどの欠点を補うべく、より精度の高い手法への転換が図られています。
日本では2020年6月よりHACCPが義務化されました(2021年6月までの1年間は猶予期間)。欧米や韓国、台湾などでは既に義務化されており、食品を輸出する際など、HACCPに準拠した衛生管理が課せられています。
日本における普及状況ですが、農林水産省発表の食品製造業におけるHACCPの導入実態調査(令和元年度)によると、導入済み事業者22.5パーセント、導入途中を加えても40パーセントに留まっています。
HACCPは、「HA(危害要因)」と「CCP(重要管理点)」からなる言葉です。
まずHA(ハザード=危害要因)とは、食中毒など人体に影響をおよぼすもので、次の3点が代表的な区分となります。
CCP(重要管理点)とは、ハザードを除去または低減させるために、科学的根拠にもとづいて決定された工程です。例えば、殺菌装置内を90度で30分以上保ち記録するといった作業が該当します。
国際食品規格の策定などを行っているコーデック委員会では、HACCPに関して、「7原則・12手順」(上表)を定めています。
HACCPは、こうした原則・手順に沿って実施されるわけですが、現状ではまだ多くの作業が人の手によってなされています。例えば、食品売場の冷凍ショウケースで、朝・昼・晩など時間帯ごとに検印や署名が記されたプレートをご覧になったことがないでしょうか? こうした旧態依然とした手法で我々の食の安全が担保されているのを見て、「あと何年こんなことを続けるのだろうか?」と思うと同時に、「IoTの力で省人力化して、デジタル化を普及・推進させたい!」と感じたのでした。
そこで(人に代わって)機械やシステムが実施できる作業をサービス化する「攻めのモダナイゼーション」を考えた結果、第1弾のサービス「IIJ LoRaWAN®ソリューション for HACCP温度管理」に結実し、2020年7月にリリースしました。(下図参照)
ここで唐突に「LoRaWAN®」が出てきましたので、背景を簡単にご説明します。
IIJでは2020年4月より、スマート農業における水田の水管理プラットフォームサービスを提供しています。商用化に際して、電源がとれない、通信状況が悪い、(しかし)広範囲をカバーしたい……といった難題を解決してくれる通信手段が LoRaWAN®です。これにより、長距離、省電力、または少ない基地局でも多くのセンサの運用が可能といった利便性を実現しています。更には、情報通信にあまり詳しくない方でも簡単に設置・運用できます。こうした農業IoTでの知見・技術が、本サービスでもフル活用されています。
半径1~2キロメートルの大規模テナントやビル1棟においても、わずかな基地局で大量のセンサを収容できるうえに、センサは一度、設置すれば5年間の長期にわたりメンテナンス不要です。また、現地での設定作業が要らず、基地局、機器を少なくできる点も導入コストの大幅な削減に寄与しています。機器・センサも低価格を実現しました。
今後もIIJでは、通信技術やセンサー、アプリケーションを駆使したソリューションを通して、HACCP及びFoodTechの普及・発展に貢献していきます。