組織・状況に合わせた運用改革の進め方(前編)

IT部門を取り巻く環境

これまで、IT部門にはコスト削減や効率化といった「守りのIT」による事業への貢献が要求されてきました。近年ではそれら「守りのIT」に加えて、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みや積極的なITの利活用によるビジネス貢献など、いわゆる「攻めのIT」による事業への貢献が要求されています。

こうした要求に応えることが難しいのが『運用』です。

レガシーなシステムと新しい技術で導入されたシステムが混在する中で、そのすべてが正常に、かつ安全に稼働している状況を維持しなければなりません。更に昨今のIT市場での人材不足が問題となります。

従来の技術に関するIT人材も不足していますが、これから先端IT技術を持った人材の不足数は更に増えていく見込みであり、現状の運用体制を維持するのは難しくなってくると予想されます。

2019年3月経済産業省委託事業によりみずほ情報総研作成「IT人材需給に関する調査 調査報告書」より抜粋
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf

運用体制を維持するための方法として、既に保有している人材の有効活用(インソースの活用)と、外部組織の利用(アウトソーシング)を進めていく方法が考えられます。双方に長所短所があるため、しっかりと検討を進めていく必要がある一方、この検討を進めるための人材・工数が確保できず、検討が進まないという負のスパイラルに陥ってしまっているお客様が多数です。

進まない運用体制検討

人材が集まらない状況下で、様々な問題が運用体制で見つかります。現状の運用がわからない、コストがかかりすぎる、運用品質を上げなければならないなど、枚挙に暇がありません。

本記事では、実際に運用体制の改善検討を進めるためにIIJに依頼いただいたケースをご紹介します。

ケースA:運用子会社に運用を丸投げにしてブラックボックス化している体制

このお客様は運用子会社をグループ内に持っており、大規模なシステムを運用子会社に一任していました。子会社に運用をアウトソースすること自体はコストやリソースの有効活用として良い手段です。ただ、何を任せるのかを明確に定義しないまま、システムの増減に合わせてつぎはぎしながらアウトソース範囲を拡大していたため、何を任せているのか、金額が適正なのか不明な状況となってしまいました。また、これらを改善していくために現状の運用の可視化を行おうとしても、可視化を行えるリソースもスキルセットもなく、自力で改善活動を進めることが難しい状況でした。運用を受諾している運用子会社の売り上げは親会社のシステム運用に大きく依存しており、改善・効率化を進めると売り上げが下がることにつながりかねません。コストを含めた改善を進めたい親会社と、現在の運用・売り上げを守りたい子会社の構図となっており、子会社側には積極的な改善活動を行うモチベーションもなく、改善活動は進まない状態でした。そのような状況の中、IIJにはシステム見直しと共に、改善に向けた運用コンサルティングの依頼をいただきました。

この活動のポイントは、親会社の立場ながら、子会社の観点も踏まえた現状可視化と改善計画の立案です。ヒアリングや検討会を親会社の方と行い、子会社の方には計画の妥当性や売り上げが下がることについて利益率の向上やリソース転換が行えることをお伝えし、有効な活動であることを意識してもらうことで、最終的には双方に納得いただける計画を立案しました。この活動では、運用子会社の体制に関わる人数を5年間で25%程度削減することができました。

ケースB:システムごとにサイロ化された運用を統合アウトソース

このお客様では、企画部門がアプリベンダと共にシステム開発を行い、リリース後は企画部門の担当者がそのまま運用している状態で、運用に関するルールがなく、システム監視や運用など含めて属人化していました。そんな中、新しいクラウド環境を利用して統合基盤を構築するプロジェクトが進んでいました。属人化した運用に危機感を感じたIT部門の方は、運用の統合化とアウトソースの検討を進めていくべきだという判断をされました。

しかし、企画部門の運用担当者は自身の担当するシステムの運用しか行えず、運用レベル・思想がバラバラで属人化が進み、運用改善を進めるリソースが確保できない状態でした。そこで、IIJに運用最適化に向けたコンサルティングの依頼をいただきました。

IIJ側から、想定される運用のあるべき姿をまとめ、統合運用の設計を行った後、新基盤の運用可視化、標準化を行いました。運用メニューのサービスカタログ化を行い、お客様内で説明会を開催し、運用内容や社内費用負担などを企画部門の担当者にご理解いただいた上で、運用をアウトソースしました。結果、企画部門担当者は運用負荷が軽減され新規システム開発にリソースを回せるようになり、運用コスト・品質の最適化につながり、改善ができました。

ケースC:運用トラブルを機に運用体制の変更を検討

セキュリティ事故や運用トラブルといった問題によって危機感を持ち、運用改善を検討されるお客様も多いです。このお客様でも、トラブルをきっかけに運用品質を向上させるための運用改革を行うことが決定されました。

ITSMツール導入、部分的なアウトソースなど運用体制最適化に向けた基本方針を上層部で立案しましたが、アサインされたメンバーは、これまで改善活動に携わった経験豊富なメンバーではなく、進めていく意義や方針を理解できていませんでした。また、改善対象となる運用担当者は日々行っている小さな改善活動の積み重ねを進めており、トップダウンで決められた方針に納得できていない状況でした。改善実行メンバーのスキル不足を補い、活動に実効性を持たせるため、IIJにコンサルティングの依頼をいただきました。

この活動では、とにもかくにも上層部から現場担当者まで納得感のあるゴールイメージを検討することから始めています。長年にわたる運用ノウハウが詰まったIIJならではのサービス運営の事業モデルを元に、このお客様向けのゴールイメージを作成し、上層部の方針を改善チームや運用現場のメンバーに伝わりやすいよう可視化しました。その上で現場担当者に対してヒアリングや説明を繰り返し行い、会社として運用改革を推進することについての土台作りから取り組みました。その後、導入することが決まっていたITSMツールを活用した構成管理の自動化や作業フローの整備、対応に関わるデータ取得を実現。運用内容、品質の可視化を実施しました。その結果、アウトソースが有効な範囲とインソースで対応すべき範囲の整理が行えたため、人員の最適な配置が可能となり、運用改革による運用品質向上を実現しています。

このように、運用体制を検討するモチベーションや、選択する手法も千差万別です。ただ、依頼いただくケースで共通しているのが、運用改善を進めるリソースやスキルセットの確保が難しいこと、その中でも進めなければならない理由があることです。しかし、運用現場のメンバーを運用改善に充てると日々の運用に追われてなかなか進まず、運用を知らないメンバーをアサインすると、実効性の高い改善活動を行うことが難しいといった状況に追い込まれます。体制変更などの大きな改善を進めるためのスキルセット、経験を持っている人材は企業内だけでなく、世の中のIT人材市場を探してもなかなか見つかりません。

後編:「運用体制検討の進め方」に続く