ICTを活用した農業実証事業

※ IIJグループ広報誌「IIJ.news vol.159」(2020年8月発行)より転載

IIJを中心に実施された「IoTを活用したスマート農業実証事業」が終了し、成果報告会が開かれた。ここでは、その概略をお伝えする。

IIJ.news 編集部

目次
  1. コスト半減を目指して
  2. 実証実験の成果
  3. 農業経営体の声

IIJは、農林水産省の平成28年度公募事業「革新的技術開発・緊急展開事業」で受託した「低コストで省力的な水管理を可能とする水田センサー等の開発」に関する実証実験を「水田水管理ICT活用コンソーシアム」の共同研究グループのメンバーとして実施してきました。

コスト半減を目指して

本プロジェクトの背景には、近年、農業従事者が減少する一方、従事者一人あたりの農地面積は急増しており、特に水稲経営における水管理は依然として手作業で行わざるを得ず、大きな負担になっているという事情がありました。

研究期間は2017年から2019年までの3年間で、水田における水管理にかかるコストをおおよそ半分に減らすことを目標とし、これを達成するためにICTを活用した3つの技術要素を開発しました。

  1. 水田の水位と水温を測定する水田センサ
  2. 長距離無線技術LoRaWAN®を用いた無線基地局
  3. 水田の水位を遠隔操作できる自動給水弁と操作アプリ

IIJは1と2の開発を主導し、3は株式会社笑農和さんが担当しました。

実証実験の成果

実証実験では、静岡県袋井市と磐田市の水田に、水田センサ300基と自動給水弁100基を設置。それらの情報を無線通信で収集し、農家さんにアプリを介して水管理を行っていただきました。

水田センサは水位・水温を30分ごとに測定し、単3電池・2本でワンシーズン稼働する低コスト設計になっています。開発では、取り扱い・設置の容易さやコスト面を重視して、試作機の改良を重ねました。

LoRaWAN®は920MHz帯を使用した長距離無線技術で、免許は不要です。実証実験では、基地局の周囲1〜2キロメートルをカバーできることが確認されました。基地局はコンパクトな筐体に収められており、柱上以外にも多様な設置が可能です。通信システムの開発にあたっては、運用コストを抑えることに加え、将来的には他社の機器や、様々なアプリ、センサーなども接続できる「オープン化構想」を視野に入れました。

自動給水弁と操作アプリに関して、開発を担当した笑農和さんは、次のように語っています。

「自動給水弁は、本体と有線接続された通信ボックスから構成されます。本体を給水弁のバルブに接続する際、アタッチメントを取り付けることで、どんなメーカの製品にも対応できるようにしました。取り付け方も非常に簡単です。操作アプリは、スマートフォン、タブレット、PCに対応しており、農家さんの要望を聞きながら必要な機能を実装していきました」

農業経営体の声

本コンソーシアムには、磐田市と袋井市の5つの農業経営体が参画しており、現場の声を取り入れながら開発を進めました。ここで水管理システムを実際に使用していただいた農家さんのお話を紹介します。

「従来は、朝夕の2回、計84ヵ所の水田を回って、水の状態を確認していましたが、水管理システムを使い始めてからは、水田に行く回数が減り、仕事もかなり楽になりました。今後は、機器や通信にかかる費用を減らしていけるといいなと思います」(Aプランニング 増田勇一氏)

「私は水稲に加え、野菜も栽培しており、田植えが終わるとすぐに野菜の作付けが始まるため、水田の見回りは早朝や夜遅くになることもありました。そうした中、水管理システムのおかげで水位や水温をアプリで確認できるようになり、非常に助かっています。今後は、収穫に関するデータと、アプリ上に記録されている気象条件などを比較・分析して、次年度以降の水管理に生かしていけるようになればいいですね」(農業生産法人 農健 砂川寛治氏)

水管理システムの活用により、管理に要する時間を大幅に縮減でき、空いた時間を他の耕作地の管理や栽培に充てられます。そして、それらが経営の大規模化、収穫量の増加、品質の向上などに結びつき、競争力が強化されます。更には、上流から末端に至る一体的な水管理が実現すれば、例えば、給水時間を分散することで、より効率的な用水路の運用なども可能になります。

農業経営体へのアンケート調査によると、約6割の農家さんが水管理システムの導入を希望しているとのこと。IIJでは、実証実験をもとに開発した無線センサー、通信機器、アプリをパッケージにしたスターターキットを提供しています。関心のある方はぜひご検討ください。

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