第21話:WAN回線をすぐに太くできないときはどうしたらいいの?~文科省実証事業ご紹介編~

連載

先輩、教えて!
GIGAスクールのネットワーク

2020年度(令和2年度)のGIGAスクール構想に基づく環境整備が行われてから4年。
学校現場でのネットワーク利用にはどのような課題があり、どのような解決策が取られているでしょうか。
アフターGIGAスクールの環境整備にあたってはWANの増強やLANの効果的な整備が不可欠、と少しずつ知見が溜まってきたみなこさん。今回はまた違う側面からのアプローチについてけいじ先生から教えていただきます。

登場人物

けいじ先生(統括)

やたら先進的な試みを実施しているが実はせっかちとの噂も。先生役を買って出たが思い込みも激しい。 IIJ在籍25年を超える生き字引的レジェンド。

なおつぐ部長

まるで仏のようと評判の中間管理職。実は奈良育ちのおっとりとした性格なだけとか。プライベートでは5人の子育てに奔走しているらしい。

みなこ担当

入社1年目、右も左もわからないままいきなり教育業界担当を課せられ困惑している。先輩からの叱咤激励に耐え、日々勉強に励む健気な新人営業。


みなこ
けいじ先生、以前なおつぐ部長がGIGAスクール世代であるお子さんの端末利用状況についてレポートしてくれましたが、各アプリケーションを見るに、ブラウザベースのサイト構成が多く感じました。これって、避けられない傾向なんですかね。

けいじ
いいポイントに気づきましたね。Webベースの教材やコンテンツが増えていくことは確実でしょう。重たいファイルをダウンロードして見るのではなく、Webベースで閲覧するとなればどの端末からでもアクセスできます。それに、キャッシュされるデータも都度取得なのでしょう。そのため、端末の容量に左右されずに利用できる点がGIGAスクールの環境に適していると思います。

みなこ
たしかに利便性は高いですよね。でも、端末側にアプリケーションやファイルをダウンロードして授業を受けてもらうようにすれば、Webサイトへのアクセスに伴うネットワークの負荷は減るのではないですか。

けいじ
言いたいことは分かるんですが、教科書・教材データの容量が大きすぎて、端末側で処理しきれない現状もあるんですよ。GIGAスクール初頭に端末整備のために1台あたり補助金が交付されましたが、その補助金を駆使して整備した端末はスペックが低いんです。SSD相当の64GBが主流じゃないかな。もしデジタル教科書をダウンロードして使うとなると、1教科当たり10GBだとして、5教科だと50GBになりますよね。そうすると教科書だけで容量がパンパンになってしまいます。

なおつぐ部長
たしかにお客様からよく伺う端末の仕様もSSD相当の64GB、1.6GHZ、メモリ4GBでした。Windows Updateの際にダウンロードするデータで精一杯なスペックですよね。

みなこ
ええ、そうしたら、すぐにWAN回線を増強できない団体様や、そもそも専用線が引けないような地域の団体様は、どうしたらいいんですか?泣

けいじ
そういったことを見越して、文部科学省では「通信回線速度が遅い学校でもデジタル教科書や連携するデジタル教材等が確実に届く配信基盤の実証研究事業」を令和4年度に実施しています。これは、令和3年度補正予算「デジタルコンテンツとしてのデジタル教科書の配信基盤の整備事業」という大きな事業のうち、事業①にあたります。事業③である「自治体が共同利用するID統合管理/SSO機能およびセキュリティー/データセンター機能の基盤整備の実証研究事業」と同時に実施したのですが、IIJも事業①に再委託事業者として参画しました。委託されたのは、京都大学の研究室を持つ緒方先生が理事を務められている、一般社団法人エビデンス駆動型教育研究協議会様です。

みなこ
そうだったんですか!!事業名が、まさに私が質問したかった内容そのものです。IIJはどんなことを実証したんですか?

けいじ
机上検証ではあるんですが、【先端技術の応用による配信基盤の仕組みの検討】として、CDNを構成する複数の技術を組み合わせる「新たな配信基盤の仕組み」について検討しました。

なおつぐ部長
みなこさん、CDNって知っていますか?

みなこ
聞いたことあります!サーバに負荷がかからないようにする技術・・・のイメージです。
そういえば、IIJの関連会社でCDNって名前がついている会社がありませんでしたっけ。

けいじ
ビンゴです。今回机上検証した構成のポイントは、各学校にもCDNを配置するところです。インターネット上のCDNを「親」、各学校のCDNを「子」とし、夜間にCDN親子間でデジタルデータを同期させておくことで、生徒たちの各端末は各学校の子CDNにアクセスできればデータにアクセスできます。この仕組みを「エッジ型CDN」と呼んでいます。
このプロジェクトにはJOCDNのメンバーもアドバイザーとして参画していましたよ。

なおつぐ部長
簡易的に表すと、下記のようなイメージです。

みなこ
これは画期的な仕組みですね・・・!長年CDN事業者としてサービスを提供してきたIIJの知見が活かされた例ですね。
机上検証とのことですが、どのような結果が報告としてまとめられたのですか?

けいじ
既存技術の活用による配信基盤の仕組みにプリキャッシュ機能を加えると有用性があるか、という観点で検証しました。結果的に、「拠点-インターネット間の通信速度」が低速であるほど、プリキャッシュ機能が有効となることが分かりました。学外へのデータ通信量を削減し、デジタル配信基盤の円滑な利用に寄与することが期待されます。

みなこ
そうなんですね。このスキームを実現できれば、低速回線を利用されている団体でも快適にデジタル教科書を使うことができそうですね。
やはり実現する上で課題もあるのでしょうか。。

けいじ
大きく分けて3つ、システム設計面、運用設計面、導入面について課題があります。特に運用については、教科書コンテンツ自体の登録・追加・削除などを行う運用担当者または団体の選定が大きな壁になっています。国でもなく、企業でもなく、自治体でもなく・・・誰が責任を持って運用するのか。統合的な基盤を作ろうとする場合によく見受けられる課題ですね。

なおつぐ部長
報告書でも、配信基盤の導入は有効な手段の一つとしながらも、学校のインターネット接続回線の増強が最も重要な方策としてまとめられています。実証事業に参画した者として、今後もこの仕組みを全国的に展開するための検討の余地がないかマクロ的な視点を持って活動していきましょう。

みなこ
とても勉強になりました!SINETの接続実証事業に引き続き、CDNの分野でも文科省様の実証事業で尽力しているとは・・・!文科省様が考えられていることもウォッチしつつ、学校現場の実情も引き続きキャッチアップして、より良い提案ができるように頑張ります!

国、自治体、学校それぞれの思惑や課題について、横断的に把握しながら適切な支援を進めてまいります。(続く)